世界最大の石造寺院、カンボジアの「アンコール・ワット」が、2006年4月にISO14001認証を取得しました。これは、世界に812ある文化遺産で初めてだということです*。その環境理念は、「遺跡の保存修復と地域開発を通じ、将来の世代のために、関係機関と協力し、地域住民と一体となって、「自然・遺跡・村落」すなわち「環境・文化・地域」が調和する永続的に発展が可能な社会づくりを推進」するというもので、地域住民に対する環境教育を実施することを、環境方針の中に定めています。
このプロジェクトに関わったのは、日本の上智大学アジア人材養成研究センターと日本品質保証機構、国際規格研究所、品質保証総合研究所で、2003年から 3年計画で実施されました。ただし、国際規格を取得するという目的は達成しましたが、まだ環境配慮への意識がカンボジアの人々に根付いているとは言えないのが現状です。そこで、新たにプロジェクトを開始し、カンボジア人に対する教育面からの支援を始めました。今後はISO認証の取得範囲を遺跡だけでなく、ホテルなどの観光施設にも拡げていくということです。
その始まりとして、学校の先生やお寺の僧侶、小学生などへの地道な環境教育が必要だということで、様々な取り組みがされています。まず、「ゴミをゴミ箱に捨てる」という概念がないので、ゴミ箱を設置することから始めています。ある小学校では、「どうしたら学校からゴミが減るか」というテーマでグループで話し合い、「ゴミはゴミ箱に捨てよう」というメッセージをポスターにして貼り出したところ、学校がきれいになったそうです。また、先のアジア人材養成研究センターの主導でカンボジア人学生、日本人学生、カンボジア人石工に対する教育プログラムが組まれ、遺跡保存と環境保護について学びます。人材養成というソフト面からのアプローチにより、遺跡の環境対策が、外からのものではなく真に“カンボジア人のもの”となり、自国の誇るすばらしい遺跡とともに歴史を刻んできた、この美しい自然が守られることを期待したいと思います。また観光客たる私たち自身も、「ゴミはゴミ箱へ」捨てることや、分別を徹底することなどを、普段の生活に定着させていくことが、結局はカンボジアや他の観光地の環境保護につながっていくのではないでしょうか。
※遺跡を管理する政府機関アンコール地域遺跡整備機構(アプサラ機構=APSARA Authority)が取得した。