アメリカ企業の間で、多様性推進に関する施策を見直す動きが広がっています。テック大手のメタは、「法律や政策の状況が変化している」として、採用や社員教育、取引先の選定を含め、DEI(ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包摂性)に関する複数の施策を廃止すると発表しました。また、アマゾン・ドット・コムも、従業員向けの通知で、多様性と包摂性に関する「時代遅れの取り組みを段階的に廃止する」と説明したとされています。米マクドナルドは、これまでの取り組みで管理職への女性登用が進み、男女の賃金格差の解消も実現したとして、多様性に関する目標の一部をとりやめるほか、取引先に求めていたDEIの取り組みへの誓約を終了すると発表しました。ESGで先進的な取り組みをしてきたウォルマートも、取引先との契約における人種・性別への配慮や、DEIという用語の使用をやめるなど、小売業にもその動きが見られます。2025年1月、トランプ政権が発足しました。現在の風潮が強まった背景には、昨年のアメリカ大統領選挙で、「連邦政府のあらゆるDEIプログラムを終了する」と宣言したトランプ氏に対する政治的な配慮があると言えます。実際、過日行われた就任演説では、DEI政策が逆差別を生んでいたとの認識をにじませ、DEI重視の政策を取りやめる考えを示しました。
トランプ氏の就任が与えた影響はそれだけではありません。就任当日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱を指示する大統領令に署名しました。この協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することを目的としていますが、世界気象機関(WMO)によると、2024年は1.55度上回ったといいます。トランプ大統領は、化石燃料や鉱物などの開発をめぐる規制緩和を進めるとしており、気温上昇がさらに進むと見られます。
これに対し、日本企業の対応は、基本的には引き続きDEIを重視する姿勢を見せています。もともと日本は、世界的に見るとダイバーシティへの取り組みが遅れているところもあり、また生産労働人口の減少という社会的課題も抱えています。経済同友会の新浪剛史代表幹事は記者会見で、「DEIはイノベーションの大前提であり、日本においてますます重要だ。日本企業はもっと進めていかねばならない」と強調しました。
米テック企業の中でも、米保守系団体からDEIに関する方針を廃止するよう求められているアップルは、「法令順守の具体的な方法を提案し、会社のプログラムや方針を不適切なほど細かく管理しようとするもの」だとして、取締役会がその提案に反対票を投じるよう株主らに要請しています。
政治的な思惑や一過性の風潮に流されることなく、企業の成長のために、そして持続可能な社会のために必要な取り組みをしていくこと――それがESGに取り組む本来の意義であり、そのような企業への投資が、その取り組みを支えることになると言えます。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム