当社では以前より、企業に社会的責任(CSR)があるように国家にも社会的責任(NSR)があり、世界では国債のESG評価が行われていることに注目してきました。その際、国債のESG評価は主に政府の政策レベルのチェックにとどまっていましたが、今後はより詳細にわたって格付けされる方向に行くと見ていました。
国債のESG格付は、既に2000年頃から行われており、2010年のユーロ危機をきっかけに国債がかつてのような安全資産ではなくなり、信用度を測る需要が高まったことから、国の社会的責任を評価しようという動きが広がったのです。当時のIMFの推計でも、ESG評価によって国債の選別が進み、評価の高い国の国債がアウトパフォームすると見られており、フランスでは早くから公的年金がこうした国債への投資を開始しました。
2019年10月、世界銀行はCO2排出量や人口の増減、男女平等の進捗度など17項目の指標で、国・地域を比較したデータベースを初めて公開しました。実際に閲覧してみると、CO2排出量など項目によっては1960年の数字まであり、データは豊富です。国・地域別に、ESGそれぞれの主要3項目(E:CO2排出量、森林喪失率、再生エネルギー生産量、S:失業率、電力へのアクセス率、識字率、G:男女の労働力比率、個人のインターネット利用率、政府の効率性)で、世界平均や東アジア・太平洋地域といった地域平均と比較できるページも設定されています。このデータベース公開には、より多くのESG投資が新興国に向かうよう、またその中でどの国が、持続可能な成長に積極的かを明らかにする狙いがあるそうです。
「Sovereign ESG Data Portal」と呼ばれるこのデータベースは、その後さらに内容が拡充され、SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられている内容も加わり、現時点では135項目にわたるデータが公開されています。
国が持続可能な発展をめざすため、例えばCO2排出量をいかに抑えるかについては、民間企業の環境経営が寄与するところは大です。また、人口の増減や男女平等に関しても、国の政策に加えて、各企業のダイバーシティ施策や働き方改革の進捗が、国全体の格付にも大きな影響を与えることになります。
つまり、国が社会的責任を果たすためには、政府や公的機関に任せるだけでなく、民間企業の貢献が欠かせません。企業は人で構成されており、方針を決めるのも、風土を醸成するのも、結局は、経営陣や管理職を含めた全社員の意識ということになります。国家の社会的責任が評価される時、それは、私たち国民一人ひとりが試されていると言えます。そのために、国民への周知・啓蒙と意識改革も重要となるのではないでしょうか。
参考:The World Bank「Sovereign ESG Data Portal」(http://datatopics.worldbank.org/esg/index.html)
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム