2020年代に入ってからの新型コロナウイルスの感染拡大ということもあり、会社のサテライトオフィスがある鹿児島県出水市で、ワーケーションをする機会を持つようになりました。
出水市には日本で最大級の武家屋敷群(「出水麓武家屋敷」)が当時の街並みのまま残されており、2019年には日本遺産に認定されています。「出水麓」は北の肥後国と接する薩摩の表玄関にあたり、薩摩中から剛勇の士を集めて国境の守りを固めることで、1630年頃から「薩摩藩最大の麓」を形成した、400年に及ぶ歴史のあるところです。
麓武家屋敷群に滞在して仕事をし、そこに暮らしながら地元の人々と交流することで、気が付いたことがあります。それは、歴史のある地方のソサイエティ、コミュニティには、何百年というESGの考え方に基づく規範・精神が現在まで脈々と守られ機能しているのではないかということです。
さらに、鹿児島県に本店登記している上場企業は現在12社ありますが、出水市に本社があり活動している企業は1社しかありません。同社は半導体、液晶、太陽電池製造装置などへの精密加工を得意とする部品加工会社で、2000年代に第1次成長局面を迎え、リーマンショック時には過大投資の後処理で苦しんだ数年間がありましたが、その後は成長分野での再度の事業拡大により、前2022年8月期は史上最高益を更新しました。
今期は世界的なハイテク分野の事業環境の悪化から、前期比30%減の経常減益と慎重な期初見通しを公表されています。しかし中期的には米国市場向けを中心に成長製品が牽引する見通しなので、現時点では設備投資のタイミングを慎重に見定めています。
同社はこの1~2年の間、ESGへの取り組みと情報公開に積極的に取り組んでいます。定期的に会社訪問して、社長以下、スタッフの方へインタビューをする機会を持つたびに、その念を強く持ちます。ESGに関する開示項目は、年を追うごとに質・量ともに拡大しており、経営判断・戦略・体制強化に取り組まれていることがよくわかります。決算説明資料の後半部分はESGに関連した説明・開示であり、昨年度は公約どおりに「統合報告書」も初めて発表されています。こちらも評価に足る充実した内容でした。
地方の企業であることと知名度がまだ低いことから、人材採用に苦労することがあるそうですが、福利厚生や働き方改革を進めることで企業の体質も強化・拡充していきたい、との意欲を表明しています。 このように、まだまだ知られていない隠れた魅力ある地方の成長企業、ESGを梃子として進化する企業を見つけることが、企業調査の醍醐味であり楽しみなのです。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム