日本の育児休業制度は世界一。しかし……

2021年6月、育児・介護休業法が改正され、2022年4月より段階的に施行されています。来月10月には、出生時育児休業、いわゆる「産後パパ育休」が新設され、育児休業の分割取得が可能となります。そして、来年2023年4月からは、育児休業の取得状況の公表が義務付けされることになっています。

このように日本の育休制度は拡充されてきており、ユニセフ(国連児童基金)が2021年6月に発表した報告書「Where Do Rich Countries Stand on Childcare?(先進国の子育て支援の現状)」によると、育児休業制度において、日本は41カ国中1位となっています。父親に認められている育児休業の期間が最も長いこと、取得率は低いものの改善に向けた取り組みが進められていることが評価されています。しかし、保育への参加率は31位、保育の質では22位、保育費の手頃さは26位で、総合順位は21位にとどまっています(「保育の質」のみ33カ国対象)。

日本政府は、2020年5月に発表した「第4次少子化社会対策大綱」で、男性の育休取得率を「2025年度までに30%」とする目標を掲げています。2021年度の取得率はおよそ14%で、年々増加しているものの、目標にはまだ遠い現状です。では、企業にとってはどのような利点があるのでしょうか。一つは、「子どもが生まれたら育休を取得したい」と考える若者が増えている中、制度を整備することによって優秀な人材の確保につなげる考えがあります。もう一つ、面白い調査結果がありました。男性の育休制度の有無は、男性の昇進意欲との間に関連は見られなかった一方、女性の昇進意欲にはプラスに影響していたというものです。それは、男性が育休を取りやすい社内状況から、自社の未来の見通しの明るさを感じるからだとしています。

仕事と家庭の両立支援は、多様性(ダイバーシティ)推進とともに人事施策の両輪となっています。多様な人材が能力を発揮するためには、多様な働き方を可能とする両立支援が必須です。育児中の女性のキャリア継続・向上はもちろん、海外でも、男性が育児参加することにより、マルチタスクをこなす能力や生産性・効率性が高まるという効果が報告されています。ダイバーシティをはじめとする人事施策が投資の指標となることは、以前にも述べました。ただ、ユニセフの報告書からは、制度があっても実際には活用されていない現状が明らかになっています。制度を積極的に利用してもらうためには、当該社員へのはたらきかけだけでなく、上司への啓蒙や職場全体の理解・浸透といったソフト面での取り組みが必要となります。ゆえに、両立支援策を単なる福利厚生ではなく、競争力の源泉として、いかに戦略的に取り組んでいるかが重要となります。その企業の姿勢こそが、経営に影響すると言えます。きれいに整えられた表面だけでなく、その実態を見極めることも、投資判断において重要であるというのは、ESG投資に限ったことではないと言えます。

株式会社グッドバンカー
リサーチチーム

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