金融庁は、7月12日に「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範(案)」を公表し、パブリックコメントを公募しています。これは、ESG評価・データ提供機関に期待される役割が増す中、その評価の透明性や公平性等について行動規範を定めるべく、行われているものです。そして、各機関に、規範の趣旨に賛同し、これを受け入れる旨の表明(公表)を呼びかけ、受入機関はこの規範の諸原則・指針を実施するか、実施しない場合はその理由を説明するという、いわゆる企業が発表している「コーポレート・ガバナンス報告書」と同じ形式(コンプライ・オア・エクスプレイン)をとるようです。
原則の中では、ESG評価・データの品質確保、そのための専門人材等の確保および専門的能力の育成、独立性の確保・利益相反の管理、透明性の確保、守秘義務、企業とのコミュニケーションなどが求められています。さらに、ESG評価・データを投資判断等に活用する機関投資家やアセットオーナーなどに対しても、そのESG評価・データについて、評価の基本的な目的・方針のほか、手法等について理解し、投資判断においてどのようにその評価・データを利用するかについての基本的な考え方を明らかにすべきと提言しています。そして、企業に対しても、ESG関連情報をわかりやすく開示すべきと提言しています。
ESG投資は、もともと「環境」「社会」「ガバナンス」に配慮した経営を行うことで、会社の持続可能な成長と、持続可能な社会の形成をめざすものです。これまで、人権問題や不祥事等の課題を抱えた企業や、たばこやアルコール、ギャンブル、ポルノ、兵器等の産業には投資をしないなど、それぞれの価値観で投資が行われてきました。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻以降、その「持続可能性」に対する考え方に変化が見られます。特に地政学的リスクを強く認識する欧州では、一部で、自国を守るための防衛産業が、持続可能な社会のために必要だと考えるようになったのです。そして、ESGファンドであっても、軍需産業への投資を可能とする運用会社も出てきました。 一方で、安易に防衛産業と言いかえることで、同産業を社会的に持続可能であるとすることへの懸念も示されています。どのような社会を求め、投資していくかは、投資家の価値観によります。今回の行動規範から浮かび上がってくるのは、そのESG商品がどのような目的や基準で評価されたものなのか、またそれをどのように投資判断に利用しているのかを知ることによって、個人投資家としての自分の価値観を判断する材料になり得るということではないでしょうか。そして、自分にとっての持続可能性とは何かを考えることは、実は自分自身を知ることだと言えるでしょう。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム