「21世紀の資本」があるならば、当然「21世紀の資本家」がいるわけですが、それは、どのような人たちなのでしょうか。アメリカの経営学者、ピーター・ドラッカーは1970年代に、「企業年金や年金基金を通じて、株式を保有することで、生産手段を保有する、すなわち“資本家になる”ということだ」と喝破し、年金を拠出しているのは、雇用主と従業員の双方なのだから、従業員すなわち労働者も資本家である、と唱えました。
その伝でいくと、160兆円以上を運用する世界最大の公的年金、ニッポン最大の株主である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積立金は、もともと個人の年金が原資であり、生命保険会社が運用している責任準備金も、個人の保険料です。日本株を中心に構成される、上場投資信託(ETF)を購入し続けて、その残高が30兆円になろうかという日本銀行も、公的な機関です。日本では、社員持株会のある企業も多く、つまり社員であると共に株主(資本家)であるという立場で、働く人にとってより良い会社と社会をめざす、さまざまな提案ができるはずです。
ちなみに日本の金融資産は、銀行や証券会社以外に、個人の金融資産1845兆円、民間非金融法人企業の金融資産1167兆円、保険会社責任準備金345兆円です。(※)公的年金と企業年金などの合計が390兆円程度と見られ、また、個人の家庭に眠っているタンス預金を、41.7兆円とする研究がありました。さらに、統計数字には、あらわれていない労働組合と宗教団体の資産があります。このような金融資産を、どのように「良い資本」にするかが問われています。もともと、「資本」には良いも悪いもなく、良く動かせば「良い資本」に、悪く動かせば「悪い資本」になります。
このように考えると、私たちは皆、「21世紀の資本家」であり、この資本主義社会の当事者として、どのように資本を動かすかについて、意識的であることが、個人の社会的責任と言えるのではないでしょうか。そのためにひとりひとりが、今私たちが生きている、この資本主義社会というシステムと、そのメカニズムについて徹底的に学ぶこと、理解することが必要であり、また人々の金融リテラシーを高めることで、個人の自由で主体的な金融行動の選択を可能にするのは、国家と金融機関の社会的責任でありましょう。
(※)出所:日本銀行資金循環統計 2020年第一四半期速報
生命保険協会と日本損害保険協会発表金額の合計(2019年度末)
タンス預金:第一生命経済研究所 熊野英生氏 ダイヤモンドオンライン(2016年3月3日)より
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム