5月26日に非常事態宣言が日本全国で解除されたとはいえ、新型コロナ感染症(COVID-19)危機により、企業業績への影響が危惧されます。IRについても、企業には、これまでとは異なる姿勢や対応が求められているのではないでしょうか。乱高下した株式市場は少しずつ落ち着きを取り戻しているようですが、今後どのような動きをするのかを予想するのは難しく、企業のIRに関わる情報開示も、より丁寧さとタイミングが重要になってくるものと思われます。
前回ドイツのNASPAという金融機関による、自社のコロナ対応の顧客向けレターを紹介しましたが、今回は同じドイツのミュンヘン再保険グループが4月初めに発表したコロナの影響に関するプレスリリースを紹介します。
ミュンヘン再保険は「病気によって愛する人を失うことは、潜在的な経済への影響をはるかに上回ること」だとした上で、自社のスタッフとビジネスパートナーを守ることを最優先事項にしていると表明しました。出張の一時停止、モバイルワークの手配、ミーティングやイベント出席の中止などで、自社の従業員を守りつつ、「すべてのステークホルダーの利益のために、当社の事業とビジネス活動を可能な限り完全に維持できるように」するとの姿勢を示しました。
「正確な影響はまだ予測できませんが、当社の安定性を懸念する要因はなく、財務的ポジションは、現在の状況においても依然として強固で、このパンデミックの経済的負担に耐えることができるでしょう」と説明し、財務状況については、配当を維持する方針を明らかにする一方で、大きなイベントの中止や延期による保険料請求の可能性、COVID-19によるマクロ経済や自社財務への影響が不確実なこと、すでに発生した保険金支出、などを考慮し、「先に発表した2020年通年の業績見通しは維持できない」ときちんと発表しました。
しかし、損害保険の多くの分野がパンデミックをカバーの対象から除外していることを指摘し、生命保険と医療保険による請求額についても、今後の死亡率の推移次第としながらも、「中規模の自然災害による損害保険の再保険のコストを超えるものにはならない」としています。このため、支払い能力などすべての要件に照らしても、「財務的に強固であり、強力なバランスシートにより、クライアントの信頼できるパートナーになっている」とまとめ、投資家の懸念に対する自社の考えを明示しました。
不透明な現状による変更の可能性にも言及しつつ、その時点での業績への影響と見通しを開示したケースは、今の時点で、同じような業態の日本企業では見ることができませんでした。日本と欧州の感染状況の違いはあるにせよ、このように丁寧な開示が、いち早く、まず投資家に対してなされたことが、印象的でした。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム