このところ評判になっている「21世紀の資本」という映画を、鑑賞してきました。これは2013年にフランスで出版され、2014年春には38カ国で刊行され、300万部という世界的なベストセラーになった、経済学者トマ・ピケティの原作を、ピケティ氏自身が監修・出演し、ニュージーランドを代表する監督ジャスティン・ペッパートンと協働して、103分の映像にまとめたものです。
「21世紀の資本」は、日本でも13万部のヒットを記録しましたが、700ページを超える5,500円の大著ということで、実際に読んだ人より、解説本の方がたくさん読まれたのではないか、と揶揄されました。
当社でも2015年、あるアナリストがこの大著を読破、解説本の分析も含めて15ページにまとめたものを、当社のクライアントや、調査対象企業の担当者に提供して、大いに喜ばれたことがあります。
「21世紀の資本」で言われていることは、それほど難しいことではなく、「資本収益率は経済成長率を上回る」ということです。
しかし、ピケティ氏のすごいところは、これが膨大なデータによる実証研究だということです。欧米を中心に200年超、ものによっては300年にわたる各国の税務記録を分析、資本主義経済では、資産を運用して得られる利益率r(資本収益率)が、働いて得られる所得の伸びg(経済成長率)を、世界大戦後の資本破壊時を除いて、常に上回ること(r>g)を証明しました。
ピケティ氏によると、先進国の資本収益率(r)は200年にわたり、平均4~6%の収益をあげましたが、経済成長率(g)は平均1~1.5%で推移しており、今後もこの傾向は続き、この状態を放置すると、各国で格差、不平等が拡大し、社会不安をもたらすとしています。そのため、各国が協調して所得と資産に対する「累進課税制」の導入を提言しているのです。
しかし、ピケティ氏の警鐘にもかかわらず、その後も格差は広がるばかりの状況に危機感を持って、この映画の制作に関わったとみられます。 そこには、ピケティ氏の個人的な成育歴があるのではないでしょうか。実はピケティ氏の両親は、あの1968年のパリ五月革命の学生運動の闘士であり、その後パリを離れて、片田舎で農業に従事し、自給自足でトマトなどを作っていて、ピケティ氏の子ども時代は本当に貧しかったらしいのです。しかし、フランスは教育費が無料であり、貧しくとも能力のある子どもに対して、高等教育への道が開かれていることが、ピケティ氏の現在をつくったと言えます。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム