ターニングポイントを超えた投資環境と金融市場

足元の投資環境と金融市場における基本的な認識としては、以下のとおりである。

< 政治、外交 >

(1)ロシアがウクライナに侵攻(2月24日)したことにより「新冷戦(核兵器不使用による欧米諸国 vs.露中連帯の対立)時代」が幕開けした。

(2)米国、EU,NATO,G7、国連の即時対応力の低下とパワーバランスの歪みが明らかになった。ロシアへの経済制裁発動は、エネルギー(原油、天然ガス)、穀物価格の一段の上昇をもたらし、更なるインフレ加速要因になる。

(3)米国は戦略的にトランプ大統領時代から「対中国抑止」シフトを敷いていたので、今次のロシア侵攻には即応できず、NATOも対象地域外の為、直接的な行動は難しい。

(4)中国は「欧米vsロシア衝突」の推移と決着を見守り、将来の「台湾有事」に備えて頭の体操を行っている。今次の趨勢・帰着は今後の東シナ海情勢にも影響をもたらす。

< マクロ経済、金融政策 > 

(1)インフレ圧力が止まらない。米国(1月)のコアCPI上昇率は+6.0%。

(2)米FRBに続いて、欧州ECBも「物価上昇は一時的」との見解を撤回。

(3)「ロシアのウクライナ侵攻」は、世界的に更なる景気下押し圧力とインフレ加速をもたらす。世界景気の減速懸念が強まり、“スタグフレーション”観測が強まる。

(4)FRB、英国BOEは急速に2022年での「積極的な利上げ」方針に傾斜。FRBは今年は5~7回(+1.5~2%)の利上げ実行がコンセンサス。

(5)日本の消費者物価は、(既に実態は接近しているが)4月以降+2%を超える。

(6)日銀は「指し値オペ」を2月14日に発動し、長期金利の上昇を抑え込む姿勢を鮮明にした。黒田総裁の任期中(~23年4月)は緩和策を継続するというコンセンサスだが、“引き締め前倒し”(インフレ加速の場合)や“再緩和”(景気鈍化)などの思惑や観測が今後は交錯することになる。

< 債券、為替市場 >

(1)金融市場が織り込んでいる今年の利上げ観測見通しは、米国は一段と前倒し・加速気味に、欧州も年内に実施する、というものである。日本も徐々に23年に実施の可能性を織り込み始める。

(2)米国の長短金利は利上げ加速観測から強含み、投資家マインドと市場の金利水準に急速に織り込まれてきている。欧州のマイナス金利状態もゼロ水準を回復。

(3)ウクライナ侵攻により当初は日本円が買われたが、基調は日米金利差拡大を背景とした米ドル買いに。

< 株式市場 >

(1)原油価格の連騰(=インフレリスク)、米FRBの金融政策前倒し観測(=金利上昇)、ウクライナ情勢の緊迫化(=地政学リスク)などが示現したことで、株式市場の一段の下押し要因となった。

(2)企業業績は、22年1~3月期から増益モーメンタムが鈍化する見込み。

① 新型コロナウイルス禍による需要低迷からの回復の動きが一巡する

② 生産・輸送面での供給制約が継続

③ 資源・エネルギー価格、人件費、円安、金利上昇などのコスト増加が強まることからの“減益リスク”が高まる。

(3)日本企業の業績予想(日経平均の予想EPS値)は、昨年12月時点での2090円(ピーク)が2004円まで低下した。直近は2077円にリバウンドしたが、今後は低下に向かおう。

(4)日銀は1月14日の市場の大幅反落時に3ヵ月ぶりにETF買い入れを実施。その後の乱高下時の25日と2月14日にも買いを入れた。基本的には買い入れ政策は後退。 

(5)日経平均株価は、1月5日に29388円の戻り高値をつけたが、その後は米国株安に連動して調整局面になった。27日には26044円(下落率▲11%)まで下落したことで「弱気相場」入りし、200日移動平均線は下向きに転換した。株価調整に時間がかかることを示唆している。

(6)2010年代での、

    『デフレ、低金利、金余り、IT&DX高成長、公的&中央銀行債務拡大』

   という要因による「債券高、株価上昇、ドル安」局面はターニングポイントを迎え、

 2020年代は、

    『インフレ上昇、金利上昇、余剰資金減少、リスクテイク心理後退』

   という投資環境に転換した。

(7)株式市場での“3重苦”による逆風の投資環境が当面続く。

    ① インフレ上昇圧力&リスク

    ② 金融政策要因(金融引き締め、金利上昇局面)

    ③ 地政学リスク要因(ロシア、中国)

(8)今後の注目材料(=弱気材料が好転するか)としては、

 ① 岸田政権の経済政策『新しい資本主義』『成長と分配の好循環』の具体策

 ② 7月実施予定の参議院議員選挙に向けての政策発動

 ③ 株式市場には逆風となった「株式の配当・売買にかかる金融所得課税強化」策と

「四半期決算情報開示の後退姿勢」の動向

 ④ 4月の東証市場再編に絡んだ日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)改革の行方

波乱含みの動きが続くと想定される株式市場においては、E(環境)、S(社会責任)、G(経営統治)の対応・改革が進捗している割安・優良企業を、長期投資の観点から仕込む基本的スタンスが肝要であると思われる。 究極のSDGs(持続可能な開発目標)は“平和であること”を考えると、現下の「ウクライナ危機」の早期の解決が強く望まれる。

(c)株式会社グッドバンカー
執行役員
田淵英一郎

(ご留意頂きたい事項)
本稿で記載されている経済統計および金融市場データは発表元ならびに各種の情報媒体から入手・加工したものであり、正確性と安全性を必ずしも保証するものではありません。記述の内容は筆者の個人的な知見、判断、著述形式に拠る投資情報と投資アイデアの提供が目的であり、予想の結果や将来の投資成果を保証するものではありません。

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