2022年の投資環境における基本的な認識として、2010年代の10年間(リーマンショック後から新型コロナ禍)で続いた
『低インフレ、低金利、金余り、IT&DX高成長、公的&中央銀行債務拡大』
という構造要因による「債券高、株価高騰、ドル安」局面は、2021年にターニング
ポイントを迎えて、2022年からの今後数年間は
『インフレ上昇、金利上昇、余剰資金減少、リスクテイク後退』
という投資環境局面に移行したと判断される。
世界的に物価上昇が加速しており、上昇率のモーメンタムは拡大が続いている。
〇 主要国物価上昇率(11月:前年同月比)
卸売物価( 10月分 ) 消費者物価コア分( 同 )
米国 : +9.6%(+ 8.8%) +4.9% (+4.6%)
ユーロ圏 : (+21.9%) +2.6% (+2.0%)
英国 : +9.1%(+ 8.0%) +4.0% (+3.4%)
中国 :+12.9%(+13.5%) +1.2% (+1.3%)
日本 : +9.0%(+ 8.0%) +0.5% (+0.1%)
エネルギー価格の上昇(コストプッシュ型)と新型コロナ感染拡大による供給制約(サプライサイド型)による、川上からのインフレ加速(卸売物価、生産者物価の上昇)が顕著である。
加えて感染拡大により抑制されていた消費・レジャー行動が、新型コロナの蔓延が鎮静化する度に消費需要が喚起されることから、品不足感と相俟って波状的なデマンド・プル型の要因も加わることになる。
卸売物価はユーロ圏を筆頭に中国、米国、英国、日本などの主要地域では、前年同月比+10~20%前の上昇率に達してきている。
消費者物価(除く生鮮食料品)上昇率は、米国・英国・ユーロ圏で政策目標の2%水準を超えている。日本の上昇率はようやく3ヵ月連続プラスになり、11月分は+0.5%まで高まっている。携帯電話通話料金が▲50%強値下がりした影響が全体では▲1.5ポイントあるとされているので、この特殊要因を考慮すると実態面では既に2%水準に到達していると判断される。この影響が剥落するのは来年春以降である。
米国FRB(連邦準備銀行)は12月15日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、量的緩和を縮小させる措置の加速を決めた。終了時期を2022年6月から3月へ前倒しすることで、次の利上げ時期を早める選択肢とした。パウエル議長はこれまで、「物価上昇は一時的」との対外的見解を述べていたが、判断を撤回することでインフレ抑制に金融政策の軸足を移すことになった。
FOMCの参加者は、2022年に3回、23年に3回、24年の2回の合計8回の利上げを想定している。今年9月時点では22年に第1回目の利上げに踏み切るかどうかという議論だったのから、直近3ヵ月間での急速な判断変更となった。
FRBは来年2022年において難しい情勢判断と政策実行(程度、タイミング)に直面する。
① FRBが利上げにのめり込むことで、景気鈍化を引き起こすリスク
② 利上げを急ぎ過ぎることで、長期金利の急騰や新興国の混乱を招くリスク
③ 利上げが遅れればインフレ懸念が一層高まり金利上昇を招くリスク
などが想定される。
英国イングランド銀行(BOE)は12月16日の金融政策委員会で3年ぶりの利上げを決定した。欧州中央銀行(ECB)は「緊急買い取り制度」の打ち切りを決定し、「超金融緩和」状態から緩やかな離脱に向かうことに踏み出した。米FRBはタイムラグを持って後追いする。
英国BOE > 米国FRB > ユーロ圏ECB > 日本銀行
という時間差の“雁行形態”であり、過去と同様のパターンを辿ることになる。
日銀は外部要因(海外のインフレが国内物価に波及、円安加速)の急激な変動でもない限り、黒田総裁の退任時期(2023年4月)までは現状の緩和政策を続けるというのが市場のコンセンサスである。
しかし一方で日銀は金融緩和を長く続ける為に国債などの資産購入を減らし始めており、上場投資信託(ETF)の買い付けも最近は実施していない。黒田総裁は「金融緩和の縮小や正常化では全くない」と説明するが、“量的緩和のアクセルを緩める(=アクセル・ブレーキ)”は静かに行われている。
ラスト・ランナーである日銀も、2022年にはより踏み込んだ金融政策の修正に対する思惑が強まる。“携帯電話料金の引き下げ”の特殊要因が消失する4月以降は名目上の物価上昇率が上がり始めることが契機となるかもしれない。原油高や円安などの影響がさらに継続すれば、消費者物価上昇率が2%の政策目標水準超えとなれば、政策変更の観測は強まることになる。
海外市場からの物価上昇に日米金利差拡大によるドル高・円安が継続すれば、交易条件の悪化による国内企業への収益圧迫要因となる。仕入れ価格の上昇圧力が高まる一方で、コスト高を販売価格に十分転嫁できていない構図が想定される。企業業績は2022年度も増益予想となっているが、増益モーメンタムにはブレーキが掛かることになる。
加えて日本企業は“脱炭素化”に向けた長期的な「グリーン投資」を行っていかねばならず、 これは“コスト先行”(先憂後楽)となることから、短期的には企業収益へのネガティブ要因が続くことになる。“脱炭素化”への取り組みによる産業構造・収益構造の転換や市場創造はESGの観点からは長期的に重要な施策であり、戦略的ビジョンと対応とが求められるが、その為の「グリーン投資」における“費用対効果”を定量的に掌握し、選択的に実行すること肝要となろう。
(c)株式会社グッドバンカー
顧問
田淵英一郎
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