投資環境と金融市場の見通し(129)

Ⅰ.要約・ポイント

金融政策

  1. パウエル議長は5月1日のFOMC後の会見で「利上げ再開の可能性」を否定し、「次の政策行動は利下げ」と付言し市場に安心感を与えることに腐心した。その後に発表された4月の雇用統計、消費者物価上昇率、小売売上の結果が弱めだったので投資家マインドは好転し、「ソフトランディング」の見方が復活した。
  2. 現時点では「9月か10月での利下げ」がコンセンサスとなっているが、今後数ヵ月間の経済統計の結果と大統領選挙の接近が不透明で懸念材料。
  3. スウェーデンが欧州の先陣を切って5月8日に8年ぶりの利下げに踏み切った。ECBによる「6月6日の利下げ」、英国BOEによる「6月20日の利下げ」はほぼ当確。
  4. 「日銀の次の利上げは10月」だったのが、「7月の利上げ前倒し」という見方に変わってきた。植田総裁が「円安の影響は軽微」と発言したことや、債券買い入れ額を想定外のタイミングで減額したことで、金融市場は過剰反応し岸田政権からは圧力が掛かるなど、これまで順調に対応してきた植田体制に陰りが出てきた。円安、物価上昇に対する日銀への圧力が、今後とも強まることが想定される。

債券・為替市場

  1. 「FRBによる利下げは9月」という見方がメインシナリオだが、基本的には年初時点での“過大な利下げ期待”が剥落している過程にある。米国金利は上値・下値切り上げのジリ高トレンドを辿っている。
  2. 日本の長期金利も強含みの動きに。円安進行阻止の利上げ前倒しが意識され、金利先高感が強まり、長期金利は1.1%水準にまで一気に到達した。今後も強含み。
  3. ゴールデンウィーク中の2回の市場介入(合計で8兆円規模)により、ドル円は160円台から151円台まで押し戻されたが、金利差要因に加えて、資金フロー動向、構造要因からも当面は円安基調が続く。
  4. 植田日銀総裁は4月26日の金融政策決定会合後に、「円安は基調的な物価上昇率に今のところ大きな影響を与えていない」と言及したことで、投機筋に円売りのきっかけを与えてしまった。就任以来、市場・投資家へ丁寧な説明による発信を行って「異次元緩和からの脱却」を手堅く行っていると評価が高かったが、味噌を付けてしまった。政権・マスコミ・投資家からは不信感と距離感が生じてしまった。潜在的な円売り圧力につながっている。
  5. 短期的には160円台を目指す動きが続こうが、年後半にはドル高の弊害への圧力の高まりから、センチメントの反転とポジションの巻き戻しにより、140円台を目指す動きに反転する。

外国株

  1. NY市場はFRBによる利下げ期待が復活したことで、ダウ平均株価は5月17日に4万ドル台の大台を付け史上最高値を更新した。ハイテク株主導の上昇相場が復活したが、その後は世界的な金利上昇を嫌気して割高感から反落となった。
  2. 欧州株は、景気・物価情勢の落ち着きと6月の利下げを評価した投資資金の流入が続き、史上最高値を更新した。中国株・インド株・台湾株も戻り高値を更新。

日本株

  1. 決算発表が一巡したが、下方修正や事前予想に未達だった企業が多かった印象。アナリスト予想(2023年度、24年度)が強気過ぎた感が否めない。2025年3月期の会社当初予想は、為替見通し(円高前提)から慎重。自動車・鉄鋼セクターの減益予想から増益モーメンタムは鈍化。為替の変動が業績に与えるインパクトが大きいことから、見極め(上方修正)には時間が必要。
  2. 「PBR1倍割れ是正策」公表や、これを評価した株価水準修正の動きは前倒し気味に進行して、株価はかなり織り込んだ。今後は成長分野における事業戦略の巧拙や収益貢献への評価が、企業間の株価上昇の格差に影響する局面に移行する(ソニーの決算発表時の公表内容と株価の反応)。
  3. 欧米市場が5月に入って史上最高値を相次いで更新する動きを見せたのに比べ、日本株は上値が重くなった。金利上昇と円安の落ち着きどころが懸念材料である。「自社株買い」(過去5年間で最大規模)と「新NISA」を活用した個人投資家からの投資資金の流入は、需給の好転による下値リスクの軽減となる。

田淵英一郎

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