投資環境と金融市場の見通し(120)

Ⅰ.要約

景気・物価・金融政策

  1. 米国の景気見通しは、「リセッション(景気後退)」から「ソフトランディング」への期待にシフトして、短期的に目まぐるしく振れている。足元では金利上昇と消費減退による悲観的観測が強まっている。
  2. 中国の景気と不動産への先行き懸念がますます強まる。“デフレ化”する可能性が高まり、不動産業界発の“金融システミックリスク”を意識せざるを得ないことから、1990年代の「日本化」を連想させる。中国経済の規模(18兆ドル)とグローバル経済における連関性・影響度は30年前の日本とは比べ物にならない。中国のデフレ化は、習近平独裁体制による米中覇権争いが激化しているタイミングととともに、グローバル経済・貿易体制へのリスクとなり、世界経済の混乱要因に。
  3. FRB、ECBなど先進国中央銀行は、過去1年半に政策金利を小幅に何度も引き上げてきたことから、物価上昇モーメンタムの鎮静化に合わせて様子見スタンスに。秋以降の金融政策は、直近時点での“経済データ(物価指標)”次第となる。しかし可能性としては、先行きの金融政策引き締めを残している。
  4. 日銀による7月末の金融政策のファインチューニングは、昨年12月に続く出口戦略を意識した第2弾。意図と行動は不明瞭な印象だが、現実解としては落しどころを上手く押さえた決定内容。結果として、金利は暴騰することなく水準を上方にシフト、為替はドル高円安基調に戻った。日銀の意図に沿った落ち着きどころとなった。
  5. 日本の物価上昇は、直近では実質的に+4%台まで高まっている。日銀内部でも、独自の管理指標(コアコア指数、刈り込み指数)の状況から、そのような認識の下に今後の対応をシミュレーションしているはずである。賃上げは、今春実績(+3.58%)でも物価上昇に追いつかず、消費支出に影響が出始める。来年以降は、継続的な実質賃金の引き上げをせざるを得ないことから、物価上昇の牽引役となるのは必定。

債券・為替・株式市場

  1. FRBの強気スタンスが明らかになった7月から強含んだ長期金利(10年物国債)は、8月22日には16年ぶりの水準である4.36%まで上昇した。日本の長期金利も、7月会合での政策変更を受けて上値余地を探る動きを強め、また米国金利に連動したことで9年ぶりの0.675%まで上昇した。
  2. 内外金利差拡大と中国からの資金逃避の動きを背景に、米ドル高が進行した。
  3. 米国金利の上昇から、株式(成長株、高負債株、割高株、不動産株など)やREITには調整圧力が強まった。
  4. 格付け会社による、米国国債や大手・中堅・地方銀行の格付けの見直し&引き下げは、今後のリスク要因であるとともに、金利上昇圧力を強める。
  5. 米国株は地方銀行の経営破綻が表面化した3月以来の調整局面。米国長期金利の上昇、中国経済の低調と不動産関連企業の金融不安の拡大を嫌気。物価上昇への楽観的な見方も後退した。
  6. 中国株式(上海市場、香港市場)からの海外投資家を中心に資金逃避が強まるので、株価は当面下値模索の動き。
  7. 企業業績は、2023年度で3期連続の最高益更新予想と堅調だが、前期比ヒトケタ増益で、製造業と非製造業とに乖離があり、牽引役が円安効果と自動車生産というアンバランス状態にある。期待された上方修正の動きはそれほどではない。中国市場の影響は、今後ジワジワと顕在化する。
  8. 東京株式市場もNY株式に連動して調整局面入り。それまでが、(短期指向の)海外投資家の買い上がりにより、割高となっていた。金利上昇が切っ掛けとなり、短気的には調整パターンの動き。
  9. 今後のリスク要因としては、
    • 米国の財政・債務・予算協議の混乱
    • 格付け評価機関による債券格下げの動き
    • 中国の景気動向、不動産会社の経営不安、地方政府の債務問題(どこまで情報開示がなされるのか、正確なのか不透明ではあるが)
    • ドル高・円安の進行
    • 日銀の政策変更(“出口戦略”)の前倒し観測(政府の為替介入に合わせて)

田淵英一郎

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