投資環境と金融市場の見通し(118)

Ⅰ.要約

景気・インフレ・金融政策

  1. 資源価格上昇(=川上)によるインフレはピークアウト、モーメンタムは減速中。一方、需要の回復と人手不足(供給制約)からサービス価格、人件費の上昇(=川下)が加速しており、前年比水準は中央銀行の目標を上回って高止まりしている。中央銀行、金融市場の見方は、物価上昇が来年にかけてスローダウンする“楽観論”がメインシナリオだが、足元の英国や欧州で起きている“物価高止まり”や“再加速”が続く“リスク・シナリオ”もあり得る。
  2. 米国景気は今年後半には「景気後退(マイルド・リセッション)」局面を迎える、との観測・期待は、特に債券投資家に根強く、政策金利の引き下げ期待につながっている。ユーロ圏は今年1~3月期まで2四半期連続のマイナス成長(=テクニカル・リセッション)となった。中国も足元4~6月期は不調。ゼロコロナ政策解除による景気押し上げが期待されたが、感染再拡大で空振りに終わっている。
  3. FRBは、6月のFOMCでは11会合ぶりに政策金利の引き上げを見送ったが、年内は「あと2回の利上げ」というメッセージを発して強硬な姿勢も示した。金融市場での「利上げは無し、あってもあと1回」という見通しとのギャップがある。
  4. ユーロ圏(ECB)は政策金利の小幅引き上げを継続し、英国は物価上昇率が再加速してきたことから利上げ幅が拡大された。スイス、ノルウェーでも利上げを決定した。ドル圏のカナダ、豪州も利上げを再開した。7~9月に開催の決定会合での利上げを継続する中央銀行(FRB、ECB、英国、豪州、新興国)は多い。
  5. 6月15日のECB理事会では+0.25%の利上げ(8回目)継続見込み。
  6. 日銀は植田総裁が「金融緩和の継続」を表明し続けているが、円独歩安の展開から、「円買い市場介入」に合わせて「緩和政策の修正」観測がジワリと出始めてきた。植田総裁が7月以降、どのような状況認識・対外発信・政策変更の可能性を打ち出すのか、発言のニュアンス変化に要注目。

債券・為替・株式市場

  1. 米国での「政策金利の引き上げ休止・利下げ転換」という見通しが後退したことから、米ドルは金利差拡大を背景に対円に対して再度買われて堅調となっている。
  2. ユーロ圏は物価の騰勢が衰えず、ECBを中心に「インフレ抑制」の為の利上げ継続スタンスは不変。金利差拡大による“ユーロ買い”の展開が続く。
  3. 一方、日銀は金融緩和政策の継続を表明し続けているので、“円売り”基調も継続。今年後半では「円高(反転)リスク」が高い。
    • 日本の貿易赤字のピークアウト
    • 日銀による緩和政策の転換(早ければ7月?、本命は12月?)
  4. NY株式は割高感が強く、中国(香港)株式は景気鈍化、不動産発の金融リスク、米中ハイテク摩擦の影響から下値模索の展開。
  5. 東京株式市場は、4月からの外国人投資家による「大口の現物株式買い」が12週間継続して流入した。6月中旬までに現物株式を4.6兆円買い越したが、足元では“買い一服”状況となっている。
  6. 日経平均株価のPER(株価収益率)は15倍を超えてきて、過去レンジの上限。海外市場と比べての“出遅れ・割安”状況は是正された。(買い上げ)好材料はかなり織り込まれている。
  7. 日本企業がリスクを取らずに抱え込んでいた内部留保(現預金)を、以下の項目に振り向ける蠢動が始まったことを外国人投資家が評価した。
    • 人材投資(賃上げ、リスキリング支援、外部人材活用)
    • 株主還元(増配、自社株買い)
    • 設備投資(IT、EV、DX)
  8. 今年後半での注目材料は、
    • 企業業績(23年度下期、24年度)の上方修正 =>「業績相場」
    • 日銀の金融政策変更はいつ&何からか
    • “円高反転”リスク
  9. 2024年から始まる「新NISA制度」では、若年層・個人投資家による長期・安定的な投資資金の流入が期待される。株式需給にとってはポジティブ材料。高配当株、株主還元意欲株、高配当ETF・ファンドが注目される。

田淵英一郎

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