投資環境と金融市場の見通し(114)

Ⅰ.要約

景気・物価・政策金利

  1. FRB、日本銀行における金融政策は重要なターニングポイントを迎えている。FRBによる利上げ対応の見通しは、市場の期待と実態経済の乖離が明らかに。日銀は、10年間続けた「異次元金融緩和」を、植田新体制が何時・どこから・どのようにファインチューニングするのか、微妙なかじ取りが要求されるが、現時点では見通し不透明。
  2. 米国景気は2月に入ってから予想以上の強さを見せ、インフレも高止まりを示す。「ソフトランディング」「ノーランディング」シナリオなどの楽観見通しは修正を余儀なくされている。
  3. FRBは政策金利を「今年前半に5%台まで引き上げた後、一旦様子見・小休止というのがコンセンサスだったが、3月22日のFOMCでの見方は急速に変化(+0.5%の引き上げ観測が強まる)。物価が目標水準(2%)まで明確に低下するとの確信が持てるまでは、“引き締めスタンス”を堅持し、リスクが高まると判断すれば再加速の可能性も出てきた。
  4. 短期的には当面の“リセッション度合い”が、中期的には“インフレ程度”が、金融市場のリスク許容度を左右する。
  5. 植田次期総裁は政治的な立場に無く配慮は不必要なので、欧米の学者出身の中央銀行総裁のように「合理的・整合的に金融政策を判断する」と思われる。現下の「金融政策が合理的に説明出来ず」「金融市場が歪で機能不全を呈しつつある」状況においては、(時間を掛けてでも)(外科手術医が難解なオペをするように)「金融政策と市場を正常化させる方向転換を図る」とみるのが妥当である。
  6. 春闘の賃上げ率は平均して+3%程度(定昇分+2%、ベア+1%)に落ち着く。実質賃金はマイナス状況で変わらず、消費には引き続き抑制的に働く。

債券・為替・株式市場

  1. 米国債券市場は、インフレ鎮静化、政策金利引き上げの打ち止め(23年内の引き下げ転換も)期待から、金利上昇圧力は弱まりを見せていたが、前提条件は一変した。 株式市場は、「脱・ウクライナ(資源価格下落でのインフレ懸念後退)」と「脱・リセッション懸念(中国による“ウィズコロナ政策“への転換)を評価して、売りポジションの買戻し主体に反騰基調にあったが、雇用統計(1月分)の余りの強さに、「金利低下シナリオ」が一旦崩れて、市場に横溢していた楽観的な見方は後退した。
  2. NY株式市場は、インフレ鎮静化見通しとFRBの政策金利引き上げ終焉観測の度に強気になり、強い景気指標やFRBによる引き締め継続観測が起こる度に反落する、不安定な値動きを続けている。直近では4週連続で下落。企業業績への懸念・不透明感が急速に強まる。業績下方修正は割高状態を支えきれないので、ダウンサイド・リスクが高い。
  3. 想定以上の景気の底堅さや物価上昇の強さから、市場金利は強含み、株式市場には警戒感が高まってきている。
  4. 海外投資家は、日銀の新体制下での金融政策の変更があることを確信して、“円債売りポジション”を変えず。
  5. 日本の経済成長・物価・企業収益などのファンダメンタルズの相対的な安定さを海外投資家は評価している。「政治の不安定さ」「公的債務」「日銀BS懸念」はマイナス材料。
  6. 企業業績の下方修正と、金利上昇による割引率(株価収益率)の低下から、株価には下押し圧力が強まる。特に、ハイテク製造業と割高銘柄は調整リスクが高い。
  7. 2024年からのNISA口座の拡充は、若年層投資家においては朗報で、息の長い強気材料となる。特に、高配当利回り銘柄、連続増配(実績・期待)銘柄には投資資金の流入が継続すると期待される。

田淵英一郎

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