Ⅰ.2023年の見通し
大勢観
- 川上発(資源、穀物)の供給インフレはピークアウトしたが、川下発(米国の賃金、サービス価格)の需要サイドからのインフレ圧力が次の警戒要因
- 米欧の中央銀行による政策金利の引き上げは当面継続
- 短期・長期の市場金利は強含み
- 景気には下押し圧力(リセッション局面の到来)
- 日銀の金融政策変更(「アベノミクス」終焉)により日本の金利は強含む
- FRBの政策金利引き上げモーメンタム鈍化と日銀の実質引き上げ転換から、ドル高円安は一旦ピークをつけたが、金利差拡大、有事のドル買いが復活する
- 金融市場・投資家の焦点は「金融緩和期待」から「景気減速」にシフトした
- 株式は景気、金利の水準訂正から波乱含みで乱高下する
リスク要因
- 中国の「習近平体制3期目」は、スタート直後から、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込み、「ゼロコロナ政策」の撤回、末端での医療崩壊と死亡者急増、不動産リスクの顕在化など、波乱含みの様相。
- 岸田政権の信任(支持率)低下と政策遂行のバタバタぶりに歯止めが掛からず。安倍元首相銃撃による国葬決定を端緒として、旧統一教会問題、政治とカネの不祥事問題に対する後ろ向き対応と説明不足が自業自得の結果に。原発建て替え・稼働延長など、唐突に“大本営発表”がなされていく。防衛費の増額決定(米国の意向)と財源問題(財務省の意向)が紛糾し、先送りされたが、自民党内での政局化リスクは高まっていく。
- 日銀が金融政策を転換したことは、“アベノミクス”の幕引きであり、次期総裁への地ならし対応だが、市場と投資家に不信感・疑念をもたらした。金利上昇局面に移行した際の後始末・撤退戦には、数倍の労苦が伴う。日本の公的債務規模、日銀の国債・ETF保有量、野放図な当初・追加予算の編成、プライマリーバランスへの取り組みなど、10年間の“アベノミクス”のツケをどう清算・転換するのかが問われる局面に。
マクロ経済、金融政策
- 米国・欧州・中国は「景気後退」局面を迎える。時期・程度はまちまちだが、基本観は“マイルド・リセッション”。
- 「物価上昇」のモーメンタムは一段落したが、前年比での水準は高止まりする。
- FF金利は最終的に目標水準(=ターミナルレート)の5.0%台まで引き上げられる。その後は、これまでの引き締めの累積効果を見極める局面に移行。
- 景気(消費、住宅)・企業収益・株式市場には、下方修正圧力が強まる。
- ECBは、物価上昇率の絶対値が許容水準を大きく逸脱しているうちは強硬な引き締めスタンスを続ける。
- 日本は欧米・中国に比べて、相対的には景気、物価上昇ともに低位で安定。日銀には政策変更(金融緩和からの出口)への圧力が継続する。「YCC政策の解除」という可能性が強まる。
債券、為替、株式市場
- FRBは、物価が目標水準(2%)まで低下すると確信が持てるまでは、“引き締めスタンス”を堅持するので、年前半までは金利の強含み局面。年後半からは景気減速を織り込み、金利はピークアウトから反落局面。
- 日本の短期・長期金利には、緩和修正を見越した投機筋の売りと、金利上昇による損失回避のヘッジ売りが続く。段階的な水準訂正の動きに。
- 米国長期金利が一旦低下したことで米ドルは反落したが、来年前半は金利差拡大、有事のドル買いが再度復活する。
- 日本は経済成長、物価、企業収益などのファンダメンタルズにおける相対的(低位)安定性が、海外投資家から評価されるアドバンテージはある。「政治の不安定さ」「公的債務」「日銀BS懸念」はマイナス材料。
- 企業業績の下方修正と、金利上昇による割引率(株価収益率)の低下から、年前半の株価には下押し圧力が強まる。買い場は金利低下、企業集積の底入れが見えてくる年央以降か。2024年からのNISA拡充は評価材料。
- 日経平均株価の下値目処は24000円、上値目処は30000円
田淵英一郎