投資環境と金融市場の見通し(111)

Ⅰ.現状認識・見通し

マクロ経済、金融政策

  1. 今年夏場に商品市況が高値を付けるとインフレのピークアウト観測が、米国の消費者物価(11月発表)が予想を下回る結果を示すとFRBによる金融引き締めの減速観測が、など先走りの楽観ムードが時間差とともに市場を席捲している。
  2. 「インフレ」は高止まりし、「景気後退」の時期・程度の見極めはこれからが本番である。市場・投資家での楽観論が強まると、FRBはブレーキを掛ける可能性がある。
  3. FRBは、物価が目標水準(2%)まで低下すると確信が持てるまでは、“引き締めスタンス”を堅持する。先行きの景気(消費、住宅)・企業収益・株式市場にはネガティブ。
  4. 12月14日のFOMCでは、0.5%の政策金利引き上げがコンセンサス。
  5. 欧州は、物価がまだ加速途上にあるので強硬な引き締めスタンスを続ける。冬場のエネルギー調達懸念と価格上昇の影響はこれからが本番。
  6. 中国は、強烈な「ゼロコロナ政策」による景気のへブレーキと、不動産バブル崩壊の影響が強まる。都市部市民による抗議行動の政治リスクが加わってきた。
  7. 日本は欧米・中国に比べて、景気は低位横ばい、物価もジリ高の動きにあるが欧米と比較すると相対的には低水準という特異的な立ち位置にある。

債券、為替市場

  1. インフレ上昇のモーメンタムは鎮静化するのか、FRBは大幅利上げを減速して様子見スタンスに転じるのか、年末・年初は見極めの時期となる。
  2. これまでの政策金利引き上げの効果により、景気減速・後退観測が強まれば、債券買い、ドル売りとなる。商品市況、サービス価格、労働賃金の動向が、今後のインフレ圧力を推し量るファクターに。
  3. 米国のみならず、カナダ、豪州、英国のドル圏の金融引き締めはスローダウンとの見方が増える。ECBは強硬姿勢を続け、日銀による「YCC(=イールドカーブ・コントロール)政策」は黒田総裁の任期まで継続される。海外投資家は執拗な円債売りポジションを構築中。

危機・リスク要因

  1. 英国の年金危機、クレディ・スイスの破綻リスクの顕在化、仮想通貨交換業者FTXトレーディングの破綻など、隠された投資・事業リスクが表面化してきたが、実態は未だ不明な点が多い。リスクは持ち越されている。
  2. 中国の「習近平3期目体制」がスタートした直後から、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込み懸念、不動産リスクの顕在化に加えて、「ゼロコロナ政策」への都市部市民の不満が遂に爆発。政治問題化しかねない。
  3. 岸田政権への支持率低下に歯止めがかからない。物価対策、旧統一教会問題、政治とカネ問題に対しての閣僚不祥事と、3閣僚更迭などでの曖昧な対応が指導力の無さと政権運営の稚拙さにつながっている。4人目・5人目の事態も観測されており、政局につながる可能性も。
  4. 政権支持率浮揚の為に大型の総合経済対策を打ち出したが、財源と審議への責任は感じられない。台湾情勢を意識した米国からの要請により、「防衛費」の増額対応が進むが、こちらも財源が不透明。その他、増税プランが目白押し。脱炭素への取り組みが進行するのに合わせて、原発再稼働が拙速に始まる。

株式市場

  1. インフレのピークアウト観測、FRBの政策金利引き上げモーメンタム鈍化、NY株式の反騰、新型コロナウイルス感染の鎮静化、企業業績の堅調さ、などから、10月初から2ヵ月で+10%強の今年4回目の反騰局面。
  2. 基本的には日経平均株価で26000~29000円でのボックス圏推移が続いている。
  3. 今回のリバウンドは、物価統計と中央銀行の引き締め政策でのサプライズ的な観測・期待から、売りポジションの買戻しの動きが大きい。インフレ動向、中央銀行の政策、景気後退の時期・程度、金融リスク問題、そして何より「中国リスク」など、不透明要因が上値を抑える。
  4. 日本株は、海外株式(欧州株、中国株)と比較して割安・安心状態にあるが、上昇基調に転換するには時期尚早。日経平均株価はしばらくボックス圏での推移が続く。現状は短期的に期待先行で割高水準。下値目処は26000円、24000円。

田淵英一郎

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