Ⅰ.現状認識・見通し
マクロ経済、金融政策
- 世界経済の現状は、「インフレ圧力」と「景気後退リスク」が併存している。「世界同時スタグフレーション」や「新興国の債務・金融危機」の可能性も。
- FRBは、物価目標(2%水準)に近づくと確信が持てるまでは、“強硬な引き締め姿勢”を続ける。景気(消費、住宅)・企業収益・株価にはマイナス。「2%の物価水準までの鎮静化」に拘るので、「景気後退」は回避出来ない。
- 11月のFOMCでは0.75%(4回連続)、12月では0.5~0.75%の政策金利引き上げが現時点の予想。利上げペースの減速観測(期待)高まる。
- 「米国の金融政策に先んじる」という経験則がある、オーストラリアとカナダは、10月の利上げ幅を9月より縮小した。
- 新エネルギー調達の不安と価格上昇の影響が大きい欧州(特にドイツ)と、都市封鎖や不動産バブル崩壊の影響が懸念される中国は、景気減速リスクが一段と強まる。ECBも強硬な金融引き締めスタンスを当面続ける。
- FRB、ECB、英国(連邦諸国)などの先進国、及び新興国の中央銀行は、インフレ抑制の為に年内は政策金利の引き上げを継続する。日本だけが“景気配慮”の緩和政策を、黒田総裁の退任まで継続する。
債券、為替市場
- インフレ上昇が下落に転じるとの確信が持てるまで、FRB、ECBは政策金利引き上げるのでドルが買われ続ける、というのがコンセンサス。投資家・実需筋は“押し目買い”を続ける。
- ファンダメンタルズ主導の実需相場なので、「為替介入」などの人為的手段では基調トレンドを変えるまでには至らない。“ドル高・ユーロ安・円安”の基調は変わらず。
- 日銀による「YCC(=イールドカーブ・コントロール)政策」の断念を読んだ海外投資家は、再度の円金利の売りポジションを構築中。日銀の「出口戦略」実施は黒田総裁が退任・交替する来年4~6月以降、というのがコンセンサスだが、市場からの圧力で政策を修正する可能性が燻る。
危機・リスク要因
- 新型コロナウイルス第7波の新規感染者数はピークアウト。「ウィズコロナ」シフトへの緩和が進むが、今冬では「第8波とインフル」の混合到来の観測。
- 今次の中国共産党大会での「習近平長期・独裁体制」シフトから「軍事大国化=台湾侵攻リスク」「経済の長期低迷リスク」が明らかになった。中国でのビジネス展開の巻き戻し、資本流出、金融市場の混乱が想定される。
- 岸田政権の内閣支持率は8月から急落。コロナ対策、物価対策、国葬問題、旧統一教会問題に対しての有効策、説明責任が果たせない状態から自縄自縛の膠着状態続く。
- 政権支持率浮揚の切っ掛けの為に、大型経済対策を打ち出すことを画策。金額規模ありきでの補正予算編成(=29兆円)となり、財政悪化懸念は一段と深まった。政府(財務省)と日銀のミスマッチ政策への批判も顕在化。
株式市場
- 景気後退の可能性、金利の上昇、企業業績の悪化など、マクロ・ミクロのファンダメンタルズ要因からは、リスク資産が買われる局面ではない。
- 米国、欧州のスタグフレーション・リスクと、中国、新興国における景気減速リスクはこれから顕在化。
- 金融政策の緩和(=利上げペースのスローダウン期待)によるリバウンドは、売りポジションの買戻しによる。夏場のベアマーケット・ラリーと同一。
- 企業業績は10~12月期から下方修正となり、減益リスクが高まる。コスト上昇(原材料費・物流費・人件費・金利)と円安デメリットにより、業績モーメンタムは暗転。
- 日本株は、海外株式(欧州株、中国株)と比較して割安・安心状態にあるが、上昇基調に転換するには時期尚早。日経平均株価の下値目処は26000円、24000円。
田淵英一郎