Ⅰ.現状認識・見通し
マクロ経済、金融政策
- 世界経済は、「インフレ圧力」に晒されながら「景気後退リスク」が高まっている“2重苦状況”。「世界同時スタグフレーション」や「新興国の債務・金融危機」につながる可能性も。
- FRB(パウエル議長)はインフレ判断をミスリードし金融引き締めが遅れた。「インフレ抑制」をファースト・プライオリティと8月に表明したことから、これまでのミスジャッジへの批判を回避する為にも、物価目標(2%水準)に近づくとの兆候・確信が持てるまでは“強硬な引き締め姿勢”を続ける。11月のFOMCでは0.75%(4回連続)、12月では0.5%の政策金利引き上げが予見されている。FF金利は4%台に。
- 「2%の物価水準までの鎮静化」に拘るので、「景気後退」は回避出来ない。景気(消費、住宅)・企業収益・株価はダメージを受け続ける。
- エネルギー調達の不安と価格上昇の影響が大きい欧州(特にドイツ)と、都市封鎖や不動産バブル崩壊の影響が懸念される中国は、今後景気の落ち込みが一段と顕著に。ECBはFRBと同様に強硬な金融引き締めスタンスを当面続ける。一方、中国は習近平体制の維持を優先することで金融政策は緩和気味に。
- 新型コロナウイルスによるダメージと、先進国が金融引き締めを継続してドル高が進行することから、過剰債務状態にある新興国の“システミック・リスク“懸念が強まってきた。
- FRB、ECB、英国(連邦諸国)などの先進国、及び新興国の中央銀行は、インフレ抑制の為に今年後半も政策金利の引き上げを継続する。日本だけは、景気配慮という目的の為の緩和政策を維持するので、一人だけ取り残される構図が続く。
債券、為替市場
- 日銀のYCC政策による人為的な市場金利抑圧スタンスは、内外金利差拡大、円安進行、投機筋の売り仕掛けから、“崩壊エネルギー”が蓄積されている。何らかの切っ掛け(もしくは唐突に)日銀が現状の政策の修正・放棄することで、需給面からの“カタストロフィー・リスク”の可能性を意識すべき。
- 欧州のエネルギー調達懸念、物価高騰、利上げ加速、景気後退リスクの高まりから、金利上昇(債券安)、ユーロ安、株安が露呈した。
- “ドル高・円安・ユーロ安”の基調は変わらず。
危機・リスク要因
- 新型コロナウイルス第7波の新規感染者数はピークアウトしてきたが、死亡者推移は高水準が続く。「ウィズコロナ」シフトへの緩和対応が進む。
- 自民党は7月の参院選挙の勝利で安定した政権運営を行える3年間を手にしたはずだったが、安倍元首相銃撃事件により炙り出された自民党と旧統一教会との関係、安倍元首相の国葬決定・実施への説明責任が果たせないことから、8月から内閣支持率は急落。岸田政権は自縄自縛状態に陥っている。コロナ対策、物価対策、国葬問題、旧統一教会問題に対しての、政権運営能力、危機管理能力が問われる事態となっている。政局波乱の可能性も高まる。
- 岸田政権は、政権浮揚の為に経済対策を今後連発することを画策。
株式市場
- 景気後退の可能性、金利の上昇、企業業績の悪化などのファンダメンタルズ要因からは、リスク資産が買われる局面ではない。
- NY市場を中心に海外株式は夏場まで、物価見通しとFRBの市場配慮への期待・楽観論から、余剰資金が押し目買いに入っていたことで、当面はリスクオフの逆行の動きが強まる。
- 企業業績は、10~12月期から下方修正となり、減益局面を意識する。コスト上昇(原材料費・物流費・人件費・金利)と円安(日本企業にダメージ)により、業績モーメンタムは鈍化する。
- 日本株は割安・出遅れ状態にあるが、海外市場の株安に連動することで下値を模索する動きか。日経平均株価の下値目処は26000円、24000円。
田淵英一郎