Ⅰ.現状認識・見通し
要約
- 中央銀行による政策金利引き上げが加速したことから、金融市場での焦点は「インフレ懸念」から「世界景気の後退懸念」にシフトした。
- FRBは従前予想よりも利上げ幅を6月・7月と加速させた。カナダ、オーストラリア、英国も追随して利上げ幅を加速させる。7月27日のFOMCでは+0.75%利上げがコンセンサス。その後の引き上げ幅は“スローダウン”という見方がコンセンサス。
- 卸売物価のモーメンタム減速による「インフレ懸念」後退観測から金価格が、「景気減速懸念」から原油、商品(銅)価格が下落に転じた。
- 先進国(米、英、仏、独、伊)では、首脳交替など政権リーダーの信任が揺らいでいる。中国の習近平主席の3期目への移行も、景気情勢から綱渡り。信任低下の背景は様々だが、「物価高騰」への不満が背景にあるのは明らか。 日本では岸田政権の高位安定が続いているが、安倍元首相が突然不在となったことで、今年後半の政局は流動的で予想外の展開となる可能性も。
マクロ経済、金融政策
- 世界景気の後退観測が一層強まる。今年の成長率見通しは下方修正が続く。
- 中国景気は、再度の都市封鎖の影響から急ブレーキがかかっている。
- 米ドル高と世界的な金利上昇を受けて、新興国(債務残高=100兆ドル)の債務返済・信用問題がクローズアップされてきた。
- FRB、ECB、英国など主要先進国の中央銀行は今年後半も政策金利の引き上げを続ける。日本だけが“利上げラッシュ”から取り残されている。
- 日銀は「黒田体制終焉」(2023年4月まで)まで政策変更を行う意向はない。
円安進行が続けば、政策変更(ゼロ金利解除)に追い込まれる可能性も。
債券、為替市場
- 政策金利の引き上げにより短期金利は着実に上昇。長期金利は景気減速を意識して弱含みの動きなので「逆イールド」状態が恒常化。それがまた「景気後退」を意識させることに。
- 欧州はエネルギー調達懸念による景気後退リスクの高まりから、ユーロ安が進行。ECBはインフレ抑制の為に当面利上げを進めるので悪循環。
- 新興国も米国の利上げと米ドル高の進行から、経常収支赤字・債務不履行懸念が強まり、債券安・通貨安が進む。
- 海外の投機筋は、日銀の金融政策の転換を見越して売り圧力をかけることで日本の長期金利の上限目標(0.25%)の突破を仕掛けたが、買戻しを余儀なくされている。短期的な売りポジション調整の動きか。
株式市場
- 売りポジションの一時的な買戻しから、長短金利が反落しドル円は円高に振れ、株式市場は短期的な反発となったが、基本的には下落トレンド基調での動き。
- NYダウ、NASDAQ市場は、下落リスク(金利、企業業績、バイデン政権)多く調整が続く。ボラティリティも高い。
- 企業業績は4~6月期から増益モーメンタムが減速。コスト上昇(原材料費・物流費・人件費・金利など)が強まる。好調な輸出・製造業と内需不振の影響を受けるサービス業の2極化、さらに価格転嫁の出来る業種・会社と、そうでない業種・会社との業績格差が鮮明となってくる。
- 日本株は相対的に割安・出遅れ状態にあるが、“バリュー・トラップ”のリスクあり。岸田政権による日本の競争力復活の為の、技術・人に関する有効な政策発動と投資が回らない限り、「日本企業再生」のシナリオは見えてこない。
田淵英一郎