投資環境と金融市場の見通し(104)

Ⅰ.現状認識・見通し

政治、外交

  1. ロシアがウクライナに侵攻したことで、「グローバリゼーション時代」は終焉。
    国境の無い単一世界・市場への幻想は打ち破られ、国と同盟国が経済・軍事・国民を守る「安全保障」への希求が強まり、軍事・防衛増強の予算が膨らむ。
  2. ロシアが一旦、軍事作戦の強行に踏み切った以上、それなりの対価と成果を誇示出来るまでは局地戦が続く。米国・NATOの抑止力の低下が明らかに。
    バイデン政権(民主党)の低落に拍車がかかる。今秋の中間選挙では民主党が敗北して議会多数派の地位を失う。米国の政策遂行能力の低下につながる。
  3. 中国の上海市での感染封じ込めの失敗は、周辺地域や北京市への拡大懸念。
    生産、供給、消費面への打撃と、今秋の李克強首相の交替人事にも影響する。

マクロ経済、金融政策

  1. 長期・短期金利が急上昇し、今後一段と上昇する観測が強まったことから、実態経済へのマイナスの影響が懸念されてきた。住宅市場にブレーキがかかり、株式市場への調整圧力が強まった。
  2. ロシアからの天然資源・穀物の供給停止と欧米による経済制裁発動は、新型コロナでダメージを受けた世界経済にとって、更なる景気鈍化圧力とインフレ加速要因になる。
  3. FRBによる3月の金融政策の変更(ゼロ金利政策解除)に続いて、5月・6月には引き上げ幅が一段と引き上げられる、との観測が強まる。
    「有事での利上げ」という難しい舵取りを担う。
  4. 日本の消費者物価は4月以降に政策目標(+2%)を超えてくるが、日銀は黒田体制(2023年4月まで)での政策変更を行う意向はなし。
  5. 海外金利の上昇圧力、日本円の独歩安推移から、前倒しの政策変更(ゼロ金利解除)に追い込まれる可能性が出てくる。

債券、為替市場

  1. 米国FRBによる金利修正への転換・加速を受けて、長短金利には継続して上昇圧力が続く。欧州主要国金利もこれに追随する。日本にも徐々に上昇圧力が押し寄せる。
  2. 米国長期金利(10年債)は節目の3%に接近したので、タカ派的対応を市場は織り込みつつあるが、次回以降での大幅利上げの観測が強まってきた。
    売り圧力は継続する。
  3. 日本の長期金利が再度、上限の0.25%に近づいたことから、「連続指し値オペ」の実施で抑え込み方針を堅持。4月27・28日の金融政策決定会合では、現状の緩和政策を維持しなければ非整合的。
  4. 1ドル=130円の節目に接近したので短期的には目標達成感が出ているが、ファンダメンタルズ要因による米ドル高という中勢的な方向感は今年前半は変わらず。

株式市場

  1. ウクライナ情勢(=地政学リスク)、原油・穀物価格(=インフレリスク)、金融政策の引き締め強化(=金利上昇リスク)という“3重苦”は、株式市場には明らかにネガティブ。
  2. 金利上昇局面では、割高に買われてきた小型成長株・IT株・ハイテク株のバリュエーション調整は不可避。NASDAQ市場は下値模索が続く。
  3. 決算発表時期を迎え、コスト上昇による企業収益への圧迫度合いに注目。
    原材料費・物流費・人件費・金利など、コスト増加要因は目白押し。
    日本の企業にはドル高・円安も差引ではデメリットに働く。22年度業績での“減益リスク”が高まる。
  4. 日本市場の他の先進国に比べての出遅れを海外投資家は評価したが、コロナ禍からの回復力や中期成長力(債務過剰、人口減少)の構造的要因が嫌気される。

田淵英一郎

Top