Ⅰ.現状認識・見通し
政治、外交
- ロシアがウクライナに侵攻(2月24日)したことにより、「新冷戦時代」に突入した。欧州・米国・日本とロシア・中国の2大ブロック圏における、政治・外交・軍事・通商問題での多面的衝突が露わになる。
- 米国における今次のロシア対応は、事前想定の甘さと勃発してからの軟弱さにより抑止姿勢を最初から放棄。結果としてバイデン政権の低落に拍車がかかり、今秋の中間選挙で民主党は敗北して議会の多数派を失う。それは米国の更なるパワーダウンと混迷につながる。
- 中国は今回のロシアの侵攻方法、ウクライナの抵抗度合い、欧米からの制裁の経緯と帰趨を見守っており、習近平体制の強化と将来の「台湾侵攻」に備えている。今回の帰着は今後の東シナ海情勢に一段と緊張感をもたらす。
マクロ経済、金融政策
- ロシアからの天然資源・穀物の供給停止と欧米による経済制裁発動は、新型コロナでダメージを受けた世界経済にとって、更なる景気鈍化圧力とインフレ加速要因になる。
- インフレ上昇に歯止めがかからず。“スタグフレーション”観測が強まる。
- FRBによる金融政策の変更(ゼロ金利政策解除)が3月16日に行われたが、+0.25%の引き上げとマイルドだったことから、次回以降の引き上げ幅を強める必要に迫られる。「有事での利上げ」という難しい舵取りを担う。
- 日本の消費者物価は4月以降に政策目標(+2%)を超えてくるが、日銀は黒田体制(2023年4月まで)での政策変更を行う意向はなし。
- 海外金利の上昇圧力、日本円の独歩安推移から、前倒しの政策変更(ゼロ金利解除)に追い込まれる可能性が出てくる。
債券、為替市場
- 利上げのフロントランナーとなる米国の長短金利には継続して上昇圧力が続く。
欧州主要国金利もこれに追随する。日本にも徐々に上昇圧力が押し寄せる。 - 金利差要因と地政学リスク要因と需給要因から米ドルの強含み展開が続く。
- 円は主要通貨に対して独歩安の様相。1ドル=125円までの円安進行予想が増えてきた。
- 過去の経緯(黒田総裁による牽制発言)から、1ドル=125円への接近では日銀は口先介入でブレーキを掛ける。
株式市場
- ウクライナ情勢の混迷(=地政学リスク)、原油・穀物価格の高騰(=インフレリスク)、米FRB、欧州ECB,英BOEによる金融政策の引き締め転換・前倒し観測の高まり(=金利上昇リスク)などの3重苦が明らかとなり、株式市場への波乱要因は続く。
- 新型コロナ感染拡大による需要落ち込みからの回復は一巡する一方で、今後は供給・輸送面での制約、原材料費・物流費・人件費・金利などのコスト増加要因が目白押し。企業業績には下方修正圧力が強まる。22年1~3月期から増益モーメンタムは鈍化し“減益リスク”が高まる。
- 日本株は欧米株に比べての出遅れ感があり、外国人投資家が売り越し基調でアンダーウェイトしているという買い材料もあるが、
- 東京証券取引所における市場再編・改革の期待倒れ
- 主要企業の不祥事やガバナンス改革の遅れ
- 岸田政権による「新しい資本主義」の実態が依然として不透明
- 7月予定の参院選挙の為の経済対策の有効性
などの不透明感やマイナス材料もあり、当面は底根固めのボックス圏での推移が続く。
田淵英一郎