投資環境と金融市場の見通し(105)

Ⅰ.現状認識・見通し

政治、外交

  1. ロシアがウクライナに侵攻してからちょうど3ヵ月が経過したが、局地戦での膠着状態が続く。停戦・終戦の目処はつがず消耗戦の様相に。
  2. 米国・西欧からの武器供与と、フィンランド、スウェーデンがNATO加盟を申請したことは、東経30度ラインを巡る衝突リスクが一層高まることに。
  3. 上海市を中心に主要都市での新型コロナ感染封じ込めの失敗による都市封鎖の影響が、中国経済と民心に影響をもたらしてきている。北朝鮮での感染拡大も初めて明らかになり、ロシア、中国、北朝鮮の独裁3国家のリスクが明らかに。

マクロ経済、金融政策

  1. 1~3月期の決算発表により景気後退(リセッション)への懸念が強まった。
    金利上昇による住宅、個人消費への悪影響が現実的となり、物価上昇による実質賃金の減少とコスト上昇もネガティブ心理につながった。
  2. 世界景気は1~3月期に続いて4~6月期も下方修正。上海でのロックダウン実施の影響から、中国経済は失速。4月の経済統計は軒並み悪化した。
  3. 景気動向の先行指標である非鉄金属(銅、亜鉛、アルミ)や金価格は、一時の高騰から景気減速観測により反落に転じている。
  4. FRBによる6月・7月の政策金利引き上げ幅は、0.5~0.75%が想定される。保有資産の圧縮(QT)も6月から始まる。「有事での利上げ」という難しい舵取りを担う。
  5. 日本の消費者物価(4月)はついに目標(+2%)を超えてきても、日銀は黒田体制(2023年4月まで)の終焉まで政策変更を行う意向はない。
    日本円の独歩安から、政策変更(ゼロ金利解除)に追い込まれる可能性も。

債券、為替市場

  1. 米国FRBはようやく景気・株式市場への配慮スタンスからインフレ抑制を重視することに舵を切った。利上げペースを加速させるバイアスが強まる。
    長短金利には継続して上昇圧力が働く。
  2. 米国長期金利(10年債)は節目の3%を一旦超えたので、金利上昇による景気鈍化を理由に売りポジションが巻き戻されているが、売り圧力は継続する。
  3. 日本の長期金利が上限の0.25%に近づいたことで、政策変更の意図が無い日銀は断固として金利上昇を抑え込みにかかる。よほどの円安圧力が増さねば現状の緩和政策を黒田総裁の任期(2023年4月)まで変更する気は無い。
  4. ファンダメンタルズ要因による米ドル高という中勢的トレンドは変わらないが、先行した利上げ国(新興国、米英周辺国)では2023年の利下げを意識。

株式市場

  1. ウクライナ情勢(=地政学リスク)、原油・穀物価格(=インフレリスク)、金融政策の引き締め強化(=金利上昇リスク)という“3重苦”に加えて、昨今では景気後退リスクが株式市場への弱気材料になってきた。
  2. NYダウ株価、NASDAQ市場は、チャートからは明らかに調整局面。
    NASDAQに続いてS&P500も高値からの下落率が▲20%(弱気相場)。
    押し目買いが入っても、戻り待ちの売りに押される。ボラティリティも高い。
  3. 企業業績は4~6月期から増益モーメンタムが大幅鈍化。需要減退、供給制約、コスト上昇(原材料費・物流費・人件費・金利など)が当面継続。円安も差引で内需型企業にデメリットに働く。22年度業績での“減益リスク”が高まる。
  4. 東京市場の株価水準の出遅れと割安さを海外投資家は相対的に評価する声も一部にはある。コロナ禍からの回復力や、中期成長力(債務過剰、構造改革、人口減少)の構造的要因は引き続き嫌気される。

田淵英一郎

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