Ⅰ.現状認識・見通し
要約
- 金融市場での関心事は、年初からの新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻から、「インフレ加速」と「中央銀行の利上げ強化」にシフトした。
- FRBはインフレ判断の遅れを取り戻すべく、前回での見通しより利上げ幅を引き上げ。年内(残り4回)のFOMCで政策金利をさらに+2%引き上げる。
景気を押し下げリセッションに至る「オーバー・キル」リスクが高まる。 - 投資資金の引き上げから、リスク資産(株式、低格付け債券、代替資産)は大幅な価格調整が続く。
- 岸田政権の内閣支持率は発足以来の最高水準に。7月の参院選挙を意識して「新しい資本主義」政策が5月末にまとまったが、明確なコンセプト・政策に裏付けされた「分配」「格差是正」を打ち出すことは出来なかった。
マクロ経済、金融政策
- インフレ加速とピークアウト、景気のスローダウンと底入れなど、期待先行の観測が出ているが、まだ落ち着きどころは見えない段階。
今後とも楽観と悲観の狭間での振幅が繰り返される。リスクは依然として高い。 - 世界景気見通しは4~6月期も下方修正。22年度の成長見通しは世界全体、 新興国も+3%台に。
- 米国は雇用面での景気減速の兆候あり。人出不足からの賃金上昇リスクは継続。
- FRBは6月15日、政策金利を0.75%引き上げた。インフレ見通しの誤りと金融引き締め実行の遅れから、今後の引き締めは加速せざるを得ない。
- ECBも6月9日に11年ぶりの利上げ(+0.25%)を7月に実施と決定。
先進国、新興国のなかで日本だけが“利上げラッシュ”から取り残される。 - 日銀は黒田体制(2023年4月まで)の終焉まで政策変更を行う意向はない。
日本円の独歩安から、政策変更(ゼロ金利解除)に追い込まれる可能性も。
債券、為替市場
- FRBの連続的な政策金利引き上げにより、市場参加者は物価抑制よりも「景気減速」を意識するようになってきた。「意識後退リスク」が高まっている。
一方で、長短金利には継続して上昇圧力が働くので、ボラティリティは高い。 - 米国長期金利(10年債)は3.5%水準まで急伸したが、上記(1)から一旦反落の動き。売り圧力は継続する。
- 海外勢・投機筋は、日銀の金融政策の転換を見越して売り圧力をかけることで、日本の長期金利の上限目標(0.25%)の突破を仕掛ける。
- “日本円売りの仕掛け”とともに、国内投資家も海外投資への資金シフトに拍車。
短期的には目標達成感が出て来ているが、“ドル高”の大勢観は変わらず。
「行くところまで行く」
株式市場
- 「景気減速」の観測の高まりから長短金利が反落したことで、売りポジションの買戻しから短期的には反発するが、基本的に下落ボックス圏での推移が続く。
- NYダウ、NASDAQ市場は、依然として調整局面。
NASDAQに続いてS&P500も高値からの下落率が▲20%(弱気相場)。
押し目買いが入っても、戻り待ちの売りに押される。ボラティリティも高い。 - 企業業績は2022年度4~6月期から増益モーメンタムが大幅減速局面。
コスト上昇(原材料費・物流費・人件費・金利など)が強まってくるにつれて、価格転嫁の出来る業種・会社とそうでない負担増加との格差が鮮明となってくる。
円安進行も内需・消費セクターにはデメリット。22年度の“減益リスク”が高まる。 - 日本株は慢性的割安・出遅れ状態だが、“バリュー・トラップ”のリスクあり。
競争力回復の為の有効な投資(技術、ヒト)に資金が回らない限り、日本企業復権のシナリオは見えてこず、株価の水準訂正は難しい。
田淵英一郎