2024年9月、米アマゾン・ドット・コム社が世界中の従業員に対し、2025年1月より週5日の出社を求める方針を発表しました。同社は、既に2023年5月から週3日の出社を義務付けていましたが、今回の発表で在宅勤務を原則廃止することになります。また、同社は2つの本社でフリーアドレス制を廃止し、固定座席制に戻すことも公表しました。同社CEOのアンディ・ジャシー氏は、その理由を「社員同士が学び合ったり新たなアイデアを創出したりするには、テレワークではなく出社が効果的だ」と説明しています。
他のIT企業でも出社回帰の流れがあります。アップルやグーグル、メタといった世界的テック大手企業が、従業員へ週3日の出社を規定しており、リモートワークの浸透で急成長したズーム社も週2回の出社としています。英KPMGインターナショナルが、2024年8月までに世界約1300人の経営者を対象に実施した調査によると、今後3年以内に「従業員がオフィス勤務に完全復帰する」と答えた経営者が83%に上ったという報告もあり、今回のアマゾン社の発表がどのような影響を及ぼすのか注目されます。
このような、いわば揺り戻しとも言える現象は、今に始まったことではありません。長年、企業調査をしていると、社会情勢の変化に合わせて、人事施策においても企業の取り組みのトレンドが見えてきます。日本では、「ワークライフバランス」という言葉が浸透する以前は、「働きやすい」=「休みが取りやすい」という認識が強くありました。逆に言えば、それほど休みが取りにくい風土だったと言えます。けれども、働きやすい職場をめざして様々な両立支援施策を拡充させた企業が、従業員の理解と利用が浸透すると、今度は引き締める方向へ転換したのです。取り組みが進んでいる企業ほど、「いかに休みやすいか」ではなく、「いかに働き続けやすいか」を追求する体制づくりを模索するようになりました。そうすることで、育児や介護中の従業員にも仕事におけるパフォーマンスを求め、「働きがい」につなげようとしています。
コロナ禍で急速に進んだ在宅勤務は、通勤時間がないことによる効率性が多くの従業員に好評だった一方で、コミュニケーションの不足やメンタルヘルスなどの課題も浮き彫りになりました。また、今年6月には、米銀行大手が「働いているふり」をした従業員を一斉解雇するという事態も発生しました。こうした事件は、企業の出社要請を強める原因になるでしょう。アマゾン社員からは肯定的な意見もありますが、出社の強要は優秀な人材の流出にもつながりかねないとの指摘もあります。要は、画一的な働き方ではなく、従業員に選択肢があることが重要なのではないでしょうか。社員はライフステージによって、育児や介護、また配偶者の転勤など様々な条件を抱えます。そうした多様な働き方を認めるには、企業側の管理能力も必要になりますが、多様な人材が能力を発揮できる体制を整えることが生産性向上、そして会社の成長につながると言えます。
アマゾン社の完全出社が、同社CEOの言う通り「新たなアイデアを創出」し、成長につなげることができるのか――。今後とも世界の働き方の動向に注目していきます。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム