投資環境と金融市場の見通し(130)

Ⅰ.要約・ポイント

景気動向

  1. 米国景気は減速の兆しが見られるが、全般的には依然として堅調。物価上昇圧力も粘着的で下げ渋り。先行き判断には微妙な局面にあり、落ち着きどころは見通せず。
  2. 日本の景気は、実質賃金のマイナス継続、円安による物価上昇圧力の増大、補助金の打ち切りと所得減税の空振りなどで、低調かつ横這い推移が続く。

金融政策

  1. FRBは6月のFOMCで引き下げ回数を今年は1回にトーンダウン。引き下げの意向は継続させており、「9月・12月の利下げ」が市場のコンセンサス。しかし、大統領選挙(トランプ候補からの圧力)を挟んで微妙な判断が求められる。
  2. 欧州ECBは予定どおり6月での利下げを決定した。政治情勢が一気に流動的になってきたので、先行きは不透明でしばらく様子見。
  3. 日銀は6月14日の金融政策決定会合で、「長期国債の買い入れ削減」方針を決定した。3月の「マイナス金利の解除」に続く金融政策正常化第2弾の変更。植田総裁の説明不足によるゴールデンウィーク前後での円安加速と、政府から円安進行阻止を要請されたことによる政策対応という、不本意な動機が見えてしまった。植田日銀体制への信認が揺らいでしまったことは否めない。
  4. 日銀の政策目標・判断・対応の第一義は、
    • 物価目標(2%)への安定的な定着(物価要因)
    • デフレ状況への再度の回帰を回避 (景気要因) 
      から、現時点では
    • 円安進行による物価上昇の阻止(インフレ要因) 
      に明らかに変容した。
  5. 次回会合(7月30・31日)で具体的な削減計画が決定される。その間の物価情勢や円安進行状況によっては、「2回目の利上げ」実施の可能性もある。

債券・為替市場

  1. 「FRBによる利下げは今年後半(9月、12月)」という観測・期待が強いので、米国金利は下方バイアスが働き易い。景気鈍化の兆候も追い風に。
  2. 日本の長期金利は円安進行阻止の為に利上げ前倒し観測が今後強まっていくので、金利先高感が台頭して強含みの動きが続く。
  3. ドル円は、日銀の引き締め姿勢が宥和的との見方から引き続き金利差要因に加えて、資金フロー要因、日本の構造要因(競争力低下)から円安基調が続く。
  4. 当面は160円台超えを目指す動きが続く。高金利通貨・新興国通貨に対しても日本円独歩安。年後半にはドル高弊害を意識したセンチメントの反転とポジションの巻き戻しにより140円台を目指す動きに。

外国株

  1. NY市場はダウ平均株価が5月17日に史上最高値を更新したのに続いて、今月に入ってS&P500指数、NASDAQ市場が史上最高値を更新。ハイテク株主導の上昇に一段と拍車がかかる。楽観論によるリスクオンと割高状況は継続している。
  2. 欧州株は6月の利下げ実施を評価した投資資金の流入により、5月に史上最高値を更新したが、今月の欧州議会選の結果によるフランスの政局流動化が転機となった。

日本株

  1. 円安進行が長引き、日銀の金融政策修正の見通しや長短金利の落ち着きどころが不透明なことから、日本株も気迷い状況。日本株の出遅れを評価してきた外国人投資家も一時的にクールダウン。
  2. 弱気材料も現時点では限定的。高水準の「自社株買い」枠が株価下落時に執行され、個人投資家は「新NISA」を活用して押し目買いに。
  3. 今年1~3月期は好材料により“活況”局面、4~6月期は“高値波乱”局面、後半は“調整・波乱”局面か。
    • 日銀による金融政策の引き締め転換、市場金利の上昇
    • 円高転換 … 日銀の利上げ、FRBの利下げ
    • 米国大統領選挙、自民党総裁選(9月:新総裁選出?)での不透明感

田淵英一郎

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