投資環境と金融市場の見通し(128)

Ⅰ.要約・ポイント

金融政策

  1. FRBは2022年3月(ゼロ%)から23年7月(5.5%)までに政策金利を+5.5%引き上げ、9ヵ月間維持してきた。物価上昇率は鈍化したものの、目標(2%)水準までには低下せず、高止まりから反騰の兆しが窺える。3月の消費者物価上昇率が事前予想を上回る強い結果だったので、「今年6月での利下げ開始観測」は消失した。年内の利下げ回数予想も3回から1回に鈍化した。
  2. ECBによる「6月6日の利下げ」、英国BOEによる「6月20日の利下げ」が市場コンセンサス。ECBは年内3回の利下げに動くと予想されている。
  3. 日銀による次の利上げに関する投資家コンセンサスは今年10月。「賃金と物価上昇の好循環」への確信が強まれば、来年までの複数回での利上げも視野に入れる。植田総裁は「円安が行き過ぎれば金融政策への関与を強める」と言及し始めた。

債券・為替市場

  1. FRBによる利下げ期待が剥落したことから、欧米長期金利は一段と強含む。
  2. 日本の長期金利も、海外金利からの影響もあるが、国内景気・物価の先行き堅調のマインドを受けて1%水準に再度接近する動きに。
  3. 米ドルは“一強・独歩高”の様相を強めた。心理的な壁の155円水準を超えると、当局による介入を意識しながらゴールデンウィーク中には一気に160円台まで円安が進行したが、154円台に反騰するなど乱高下(流石に介入実施?)した。
    • 米国のインフレが鎮静化せず長期化するとの見通しが強まる
    • FRBが利下げを後ズレさせるとの観測が高まる
    • 有事(中東・イスラエル情勢の緊迫化)でのリスクオフの動き
    • 原油高もサポート
  4. 市場介入でもファンダメンタルズ要因による「ドル高円安」は止められない。今後は植田総裁による金融政策のコメントに市場参加者の関心が移っていく。

外国株

  1. NY株式市場は調整の動きを強めた。これまでの上昇相場の牽引役であったIT・AI銘柄群「マグニフィセント7」とEVの「テスラ」株が株価調整に転じた。
    • インフレ高止まりによる金融緩和期待の後退
    • 長期金利上昇により割高状況にあったNY株式のバリュエーション調整
    • AI市場・半導体に対する過大な市場拡大・収益成長期待の剥落
  2. NY株式はまだ割高感が強く、高値波乱の展開か。
    • 年初時点での過大な金融緩和期待が剥落したのに、その変調をまだ充分に織り込んでいない
    • 長期金利(10年債金利)が4.6%まで上昇してきたイールド・スプレッドからは“割高状態”感が強い
  3. 欧州株には6月からの利下げ実施を評価した投資資金の流入が継続しており堅調。

日本株

  1. 日経平均株価は、3月22日にザラ場高値41087円を付けたが、NY株式の調整の動きを受けて4月19日に36733円まで▲10%強の反落となった。年初から急伸したので、短期的な過熱感と円安と企業業績を見極めたいことが背景。
  2. 景気、物価、企業業績は低位安定なので、先進国では相対的堅調さが評価される。
  3. 東証が主導する「資本効率改善(=PBR1倍割れ是正)」の動きは継続。「自社株買い」「株式分割」の増加は、外国人投資家・個人投資家からの投資資金を長期的・継続的に呼び込む。
  4. 企業業績の発表が始まったが強弱マチマチの状況。ポジティブ銘柄は個別に物色されようが、市況全体は高値波乱の動きが続く。
  5. 今年後半は調整含みか。
    • 米国NY株の調整 … 「マグニフィセント7」「EV株」の割高感是正
    • 米国大統領選挙、自民党総裁選への不透明感
    • 円高転換 … 日銀の利上げ、FRBの利下げ
    • 企業業績見通しの下方修正 … 海外景気(欧州、中国の鈍化)、円高転換

田淵英一郎

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