Palmer Drought Severity Index(PDSI―1965)は、アメリカの気象学者Palmer氏によって開発された干ばつ指数のことです。干ばつ指数とは、WMO(1992)によって、「長期的で、かつ異常な水不足の積算結果に関する指数」と定義されており、さまざまなものがありますが、この指数を使うことで、干ばつの察知、現状把握、分析および早期警戒が可能となります。その中で、PDSIは、干ばつによる農作物の被害を比較的よく説明できるので、先物取引の参考情報にもなっているそうです。気候変動によって悪化する可能性のある自然災害(干ばつ、熱波、洪水、寒波など)のうち、干ばつが生産活動に最も大きな損害を与えます。最近の研究(Lesk、Rowhani、およびRamankutty、2016)では、気象災害2,800件と100カ国以上で栽培された16種類の穀物に関するデータを調べ、干ばつによって10%、熱波によって9%、穀物生産が低下するのに対し、洪水や寒波は農業生産の水準に影響を与えないことが明らかになりました。用水工学の観点で見ても、食品産業は水に最も依存しており、その結果、干ばつのリスクに最も影響を受けることも分かりました(Blackhurst、Hendrickson、およびVidal、2010)。
このリスクが、食品会社の収益にどのような影響を与え、どのように株価に反映されているかを調べたのが、この論文です。10社以上の食品会社がある約30か国(米国を含む)をサンプルとして抽出しています。およそ1900年から現在まで、地球の気温が上昇傾向を示し、調査のサンプルとなる国全体で干ばつの傾向が高まっています。
論文によれば、PDSIで測定されたある国での長期の干ばつで、その国の食品会社の収益性の低下と株式収益の低下が予測できるそうです。ですから、この論文の著者は投資に際し、PDSI指数を条件とするポートフォリオ戦略を運用会社に提案しています。PDSI指数が高い国の食品業界をロング(買い)にし、PDSIが低い国の食品業界をショート(売り)にすることで、超過収益が期待できるとみなしています。
このように、気候変動に関するサイエンスの知見や学術論文などのアカデミックな視点を、実際の運用に応用して気候リスクを織り込み、より良い投資リターンを獲得しようとしているのが、ロスチャイルド社のESG投資であることがわかります。したがって、運用者がクライアントであるESGアナリストとしても、アカデミックな仮説を持ち、企業への訪問や面談によって、そのことを確かめ、運用者にフィードバックすることが求められています。
※参考:ロスチャイルドアセット社「SRIクロニクル」(2020年7月号)
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム