2022年4月、東京証券取引所での市場再編が行われた際、プライム市場の上場企業には様々なサステナビリティに関する情報開示が求められました。まず、「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が、実質的に義務づけられました。TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)によって2015年に設立され、投資家が適切な投資判断ができるように、企業に気候変動関連財務情報開示を促すことを目的としています。これにより、企業は気候変動対策について、TCFDが開示を要求している「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目について開示しなければなりません。実際、多くの企業がTCFD提言への賛同を表明しており、2023年3月27日現在、世界全体では4,344の企業・機関が賛同を示し、そのうち1,252が日本の企業・機関です。海外でも、米国証券取引委員会(SEC)や欧州連合(EU)の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)は、サステナビリティ情報の開示を義務化する方向であり、世界的な動きとなっています。
2022年11月には、金融庁が、有価証券報告書及び有価証券届出書について、サステナビリティに関する取り組みの開示と、コーポレートガバナンスに関する開示を求めると発表。2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定となっています。そして、この4月より、男性の育児休業取得率の公表義務化がスタートしました。これは、2021年6月の育児休業法改正に伴うもので、常時雇用する労働者が1000人を超える企業は、年に一度、自社ホームページなどインターネットを利用したり、その他適切な方法により開示しばければなりません。つまり、企業はサステナビリティ情報=ESGを網羅した情報開示を行う必要があります。そして、公表義務を違反すると、行政指導や勧告を受ける可能性があり、レピュテーションリスクにつながります。それは、最終的には株価にも影響する可能性があると言えます。
これらの義務化により、企業の情報開示は着実に進んでいます。そして、開示するための体制整備や取り組みが必要となります。それは、企業にとって単なる負担なのでしょうか。これまで取り組んでいなかった企業にとっては負担になるかもしれません。しかし、既に取り組んできた企業にとっては、それほど問題にはならないでしょう。そこにこそ、その企業がESGをどう捉え、社会の流れを読み、取り組んできたのか――その姿勢が表れるのではないでしょうか。そしてその姿勢は、企業経営そのものに対する姿勢とも見ることができます。なかには、TCFD提言に賛同を表明しているとは言え、まだ取り組みの内容が伴わない企業もあります。けれども、このような開示義務化により企業の取り組みが進むことで、その企業が、高い株式の流動性とガバナンス水準の両方を備え、投資家との建設的な対話に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上をめざす企業向けとするプライム市場に相応しい企業となることを期待したいと思います。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム