投資環境と金融市場の見通し(116)

Ⅰ.要約

景気・インフレ・金融政策

  1. 物価上昇はピークアウトしモーメンタムは減速しているが、水準は中央銀行の目標を上回って高止まりしている。今後の注目点は「今年の後半に景気鈍化が進むのか」「金融不安(銀行の融資厳格化)が景気を押し下げるのか」。
  2. 預金流出は一旦小康状態だが、安全資産に滞留しており資金回帰はしていない。信用不安への警戒感は燻っている。
  3. 黒田総裁が4月8日退任し、昨年の安倍元首相の逝去に続いて、過去10年間の日本の政治・金融面での統治リーダーが退場したことで新たな局面に移行する。黒田前総裁は、2013年3月から始まった「アベノミクス」の“3本の矢”の先駆け大将役を担い、異次元緩和を10年間続けたが、結局、当初目標(=「2年で物価上昇2%」「(デフレ状況から脱却して成長を取り戻す」)ことは達成出来ず。追加々々の逐次追加対応したことで、「財政リスク」(国家と日銀の破綻リスク)が置き土産となった。有効な成長戦略・規制緩和が発動されることはなかった。
  4. 植田新総裁は「金融緩和の当面継続」を表明し、市場に広がっていた「4月、もしくは6月での緩和修正」観測を意図的に打ち消した。欧米での金融システム不安が再燃する可能性が影響した。
  5. FRBは、景気(年後半の鈍化基調)、物価上昇(高止まり状態からどうなるのか)、金融システム不安、という連立3次元方程式の解を慎重に判断しながら対処することが求められる。昨年年初からの物価判断、今年に入ってからの金融政策のStop & Go判断、銀行破綻への対処、はチャブ付き気味で引き続き危うさがある。
  6. 5月2・3日のFOMCでは利上げ(+0.25%)の公算が大きい。金融不安がこのまま沈静化するか不透明感があり、金融政策の先行きは混沌としている。
  7. 5月4日のECB理事会(+0.5%)、11日の英国BOEの政策会合でも連続利上げの公算が大きい。

債券・為替・株式市場

  1. 米国は、インフレ鎮静化により政策金利引き上げ対応も終盤戦。市場は年後半の景気鈍化を徐々に意識した「利上げ休止」から「利下げ転換」に目線を移してきている。長期金利は、22年秋のピーク、今年3月の2番天井での横這い推移。米ドルにも金利差縮小の影響が今後徐々に出てくる。
  2. ユーロ圏は物価の騰勢が衰えず、ECBの「インフレ抑制」スタンスは不変。理事会は政策金利引き上げをペースダウンせず。米・欧の金利差拡大によるユーロ買いの展開がしばらく続く。
  3. 日銀の政策変更に期待した海外投資家からの“売り攻勢”は、一旦鎮静化した。植田新体制下で始まった新たな対応(検証総括、発言)や政策発動の見通しを確認しつつ、次の仕掛けチャンスとタイミングを狙っている。
  4. 過去10年間の「異次元緩和金融政策」は、時間をかけて慎重に緩やかに修正・解除されていく。短期金利の引き上げは当面ないと思われるが、実行されれば「日銀の逆ザヤリスク」に、長期金利の上昇は「日銀の債券含み損の増加」による「日銀の債務超過」が喧伝されることになる。
  5. 植田新体制発足下での早期の金融緩和政策の修正見通しが遠のいたことから、日本国債・日本円・日本株に対して投資マインドは短期的にポジティブとなった。一方で、今年中には「修正への“初めの一歩”に動く」との警戒感も強い。債券・株式市場では強弱観が錯綜している。
  6. 米国、日本とも1~3月期の企業業績発表が本格化するが、実績と今期見通しは下方修正含み。日本の政治・金融市場・企業業績の安定感(ポジティブな変化は少ないが)、日本株の割高感がないこと、バークシャー・ハサウェイのバフェット会長の来日、などの材料から足元は堅調な戻り歩調。引き続きボックス圏での推移が続く。
  7. 2024年からの「新NISA制度」により、長期・安定した投資資金の流入が期待され、株式需給にとって息の長い強気材料となる。高配当銘柄、高配当指数ETFなどに投資資金の流入が期待される。

田淵英一郎

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