企業のESGへの取り組みは、ただちに数値化された結果が出ないこともあり、どうしても「短期的にはコスト要因」と見られがちです。そのために「ESGを企業の競争力と成長に結びつけるには、かくあるべし」というトップの強い信念とコミットメントが必要になってきます。信念を形づくるものは、トップの人間性ですから、当社は調査対象企業のCEOが交代した時、あるいは業績が低迷した時、その企業のESGへの対応がどのように変化するかを、関わる実務担当者の数、情報開示の姿勢、またCEOのコメントの変化などの情報を網羅的、総合的に収集、分析しており、CEOのESG対応と企業価値の変化には相関があるのではないかとの仮説を、20年以上、検証してきました。
そのため、企業の社史をひもとき、現在のCEOのメディアでの発言だけでなく、“中興の祖”と言われたような過去のCEOの発言を収集し、著作なども読み込み、また、OB・OGにもヒアリングをしています。そして、“中興の祖”と呼ばれたようなCEOたちは、それとは知らず、実はESGの発想によって経営に、ドラスティックな変化をもたらし、次の成長へつなげたと見られるケースが多々あることを発見しました。
「企業は社会の公器」という信念があれば、おのずと経営におけるE(環境)S(社会)G(ガバナンス)の課題が見えてくるはずで、これらの企業のCEOたちは、経営とESGを不可分なものとして捉えていました。ただし、それをESGとは呼ばず、「経営者にもっとも大事なものは倫理観と志である」とか、「人間のつくったものは変えられる」「経営の透明性と経営責任の明確化」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」「雇用を守ることは、経営者の最大の責務」など、経営上の信念の吐露として、表現しています。
2020年末の現在、「ESG経営」と喧伝されているものの、ほぼすべては1990年代には出揃っていて、このような革新的なCEOたちによって、別の言葉で表現されていたにすぎないのです。日経平均株価の算定モデルを作成し、1988年からガバナンスの研究を続けている京都大学名誉教授の川北英隆氏は、「相場全体が沈む中でも、株価が上昇する企業があり、何が違いをもたらすかを研究してきたが、景気変動に関係なく、業績を上げられるかどうかは、経営者次第だ」と述べています。
「企業は人なり」と言いますが、「ESGはCEOなり」と言えるのかもしれません。
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム