あれから12年、残りは3年 「新しい資本主義に今期待するもの」

今から12年前に、資産運用の季刊誌の巻頭言として以下のような大意の論考を書いたことがある。

「日本国の盛衰は、片道40年の浮沈を繰り返している。江戸時代の1820年頃の文化・文政期がピーク、幕末・明治維新の1860年代がボトム、日露戦争に勝利して世界列強の仲間入りをした1900年代がピーク、そこから帝国覇権主義に歯止めがかからず1945年の敗戦まで坂道を転げ落ちた。戦後の復興・高度成長を経て1980年代にバブル経済を謳歌したのが、債権大国としてのピークとなった。

 バブル経済が崩壊した1990年代以降は、政治・教育・企業統治の混乱、不良債権と公的債務の膨張、ハイテク技術・製品開発の衰退、少子高齢化の進展などが相まって、日本の成長力と生産性は衰退し、国際的地位は崩落の一途を辿り現在に至っている。

 その時に、次の“歴史的な底入れ時期”が2025年となるならば、今からの備えとしては、

  ① 今回の衰退局面での主因を認識する

  ② 底入れまでのダメージを少しでも軽微にする

  ③ 次の新しい反騰・盛運局面での戦略的な諸策を明らかにする

 ことが肝要である。

 次の発展段階での国家像としては、

  ① 科学技術立国

  ② 環境先進立国

  ③ アジア・ハブ立国

  ④ 文化・ソフト産業立国

  ⑤ 長寿・安心・充足立国

 の“質実国家”を目指すべきである」

 と総括した。

 あれから12年。その間の落ち込みを軽微にしたのは、結果的には2013年6月に打ち出された「(第2次)アベノミクス」政策であろうか。「3本の矢」を標榜し、大胆な金融政策、機動的な財政政策、規制緩和による成長戦略の相乗効果を狙った、安倍長期政権の看板政策であった。

結局のところ、「第1の矢」は日本銀行による長期間に亘っての大規模な異次元緩和(マイナス金利、長短金利操作、国債買い入れ策)から、資産価格が上昇し、デフレ脱却マインドは醸成されたが、一方で、日本銀行の債務リスクは急膨張し、内外金利差からの円安基調が続いている。

 「第2の矢」は首相官邸が官僚の人事権と予算編成権を持ったことで権限が強まり、予算規模は膨張を続け、40%を借金(国債発行)で賄う借金依存体質が増長した。政府総債務残高(2022年)は1462兆円、純債務残高は958兆円で主要先進国のなかでは最悪の状況になってしまった。

 一番の問題は、名ばかりで規制改革は進まず、民間資金は前向きな投資に回ることがなく、ハイテク技術・製品の開発や産業の育成が停滞した「第3の矢(成長戦略)」であろう。

成長戦略自体は、戦後の1950年代の鳩山政権以来、歴代政権から幾度となく策定されてきた。しかし、総花的であったり、(政権が短命だったので)画餅に終わったりした。

この10年間では、半導体、パソコン、スマホ、デジタル製品、ドローン、EV(電気自動車)、ネット利用システム(購買、検索、画像、対話、クラウド)など、全て欧米先進国かアジア新興国の後塵を拝するに至っている。

 投入資金による「費用対効果」と主要産業での官民協調による育成結果の検証が為されないまま、時間だけが経過したことで、2025年まで残り3年となってしまった。

従って、足元で肝要なことは、

 ① 2020年代に入って打ち出された時代の必然である成長戦略を、如何に迅速果断に、かつ効率良く進めて結果を出していくのか

 ② 産業政策における「脱炭素社会構築」政策、「デジタル技術・産業・社会育成」政策、金融行政における「ESG / SDGs」政策、特に「ヒトへの投資」を推し進めていくこと

これらが今後の日本の新たな国家態勢と競争力を取り戻せるかの帰趨を決すると言っても良いであろう。

今回は「アフター・コロナを見据えたデジタル&グリーン(投資)」戦略」が、メイン・フィールドである。日本は二酸化炭素(CO)排出単位当たりの経済成長(炭素生産性)では先進国で最低のパフォーマンスとなっている。分母である二酸化炭素排出削減への対応が遅れたことと、分子である成長分野への取り組みが劣後したことの結果である。21世紀型の高付加価値・サービス化への産業構造転換が為されていない証左である。脱炭素社会の実現の為に政府は10年間で総額150兆円規模の投資を目標として掲げている。今後は脱炭素化投資(グリーン投資)を進めながら、成長分野(デジタル化、サービス化、人的投資)を伸ばしていかなければならない。

現政権が標榜する「新しい資本主義」の現実性・本気度と、資金的に余力のある民間企業の設備投資と事業育成の効率・成否が問われることになる。

2025年まではあと(もう)3年。種まき・スタートアップの期間としてはちょうど良いのではないか。その先にある反騰・再生局面へつながる道筋が見えてくることを期待する。

(c)株式会社グッドバンカー
執行役員
田淵英一郎

(ご留意頂きたい事項)
本稿で記載されている経済統計および金融市場データは発表元ならびに各種の情報媒体から入手・加工したものであり、正確性と安全性を必ずしも保証するものではありません。記述の内容は筆者の個人的な知見、判断、著述形式に拠る投資情報と投資アイデアの提供が目的であり、予想の結果や将来の投資成果を保証するものではありません。

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