4~6月期の日本株の投資環境

当面の投資環境を判断するポイントは以下の6つである。

(1) 新型コロナウイルス(特に変異株)感染拡大とワクチン調達・供給の競争

(2) 米国の経済対策・成長戦略の行方と対中国包囲網の展開

(3) 米国の実質金利の推移

(4) ファミリーオフィス「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」問題の見極め

(5) 日本の今期2022年3月期の増益率見通し

(6) 「E(環境)・S(社会)・G(組織統治)」の一段の広がり

 

(1) 新型コロナウイルスとワクチン

新型コロナウイルスの世界全体での累計感染者数は直近(4月11日現在)で1億3500万人を超え、78億人(2020年)と推計されている世界人口の1.7%が感染した。死亡者は300万人に接近してきている。死亡率は2.2%で昨年から変化はない。

米国、英国、中国、ロシアのワクチン生産国の感染者の増加モーメンタムは低下傾向にある。増加トレンドにあるのはインド、ブラジルの新興大国と欧州大陸諸国だが、欧州主要国は厳しいロックダウン(活動制限措置)を再度発動したことでピークアウトの兆しが出てきた。一方、アメリカは感染再拡大の兆しが出てきている。

日本での新規感染者数は1月中旬がピークで、その後は減速傾向に転じたが、3月第1週に増加に転じた。政府は10都府県に発令していた「緊急事態宣言」措置を2月26日、3月21日に段階的に解除したが、既に変異株の感染拡大が進行していたタイミングだったので、 第4波である“感染リバウンド”が懸念される状況にある。

変異株が急速に感染地域を広げている。感染力が強い英国型が関西地区で感染者の半数以上に拡大しており、南アフリカ型、ブラジル型も仙台市などで確認された。

2月17日から医療関係者への先行接種が始まったが、直近でのワクチンの累積接種回数(100人当たり)は英国56回、米国51回、ドイツ19回に対して、日本は1回に留まっており、PCR検査数とともに根本的な問題が解決されないままである。

変異株の感染拡大とワクチン供給・接種の“追っかけっこ競争”の様相が年内は続く。

(2) バイデン政権の政策動向

米国の「新型コロナ経済政策」(1.9兆ドル)が3月11日に成立した。家計支援金としての現金給付は昨年から3回目、1人当たりで累計最大3200ドルの支給となった。

貯蓄として滞留しているので、新型コロナ感染拡大がワクチン効果で沈潜化すれば、米国景気は消費主導で短期的に急反発すると期待されている。

バイデン政権は続いて2.2兆ドル規模の成長戦略「インフラ投資計画」を31日に発表した。雇用拡大とインフラ整備、さらに新技術促進を意図した長期成長戦略であるが、連邦法人税、海外収益課税、キャピタルゲイン課税などが具体的に提言されているので、今後は規模と財源に関して議論が紛糾し内容が変更となり、成立の時期は流動的である。

バイデン新政権は、発足直後からトランプ前政権が行ってきた外交・通商・軍事政策の揺り戻しを活発に行っているが、対中国政策では前政権が通商問題を前面に打ち出していたのに対して、人権、軍事増強・海洋進出活動に於いて強硬的な姿勢を明らかにしている。

今後数年は東シナ海、特に台湾周辺での“地政学リスク”が高まることが懸念される。

東シナ海での緊張の高まりは、バイデン政権が“ドル高”阻止の姿勢も転換した可能性と相まって、米ドルがしばらく堅調に推移することに繋がる。

(3) 米国の長期金利

米国の長期金利は今年に入ってから上昇基調を強め、3月18日には10年物国債金利が1.75%まで上伸した。米国の長期金利が上昇した背景には、

 ① 米国の景気回復期待

 ② FRBが金融緩和姿勢を公式見解以上に前倒しするとの観測

 ③ 債券投資からの資金流出、実物資産への資金シフト

 ④ デフレ・マインドからの脱却

などが背景にある。

昨年後半からこれまでの(名目)長期金利の上昇は、市場期待インフレ率(物価上昇マインド)の反騰でほぼ説明される。今後は景気回復を背景とした「実質金利」がどの程度上昇するのかにより、(名目)長期金利がどこまで水準訂正するのかを左右することになる。

基本感としては金利上昇トレンドが継続すると見ている。

(4) 「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」問題

ヘッジファンドで資産運用管理会社の「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」の運用失敗から債務不履行状態となり、投資銀行が担保した証券ポジションを投げ売りしたことから、クレディスイス、野村ホールディングスなどの欧州・日本の金融機関が逃げ遅れて大幅損失を計上することになった。

この問題が発覚したことを契機に、ファミリーオフィスの実態(情報開示姿勢、監督当局からの監視体制)と、資金提供・ポジション管理・売買執行の金融サービスを提供することで収益を上げていた投資銀行の同関連ビジネスと、活用されていたスワップ取引にメスが入ることになる。米国SEC(証券取引委員会)やワシントンの議会・政府関係者も関心を持って解明に動くことが報道されている。一過性の事件で終わるのか、第2・第3の連鎖事案が発覚するのか、米国の株式市場が史上最高値圏にあるだけに注目を怠れない。

(5) 日本の企業業績

今期2022年3月期は、需要回復と固定費削減効果と円安効果により+30~40%の大幅増益となる、というのが現時点でのコンセンサスである。日経新聞が公表している業績予想数値(前3月期)は、直近時点(4月9日)では1326円であるが、今期は1800円程度が期待される。新型コロナ感染拡大前のピーク(1620円:2020年2月)を上回ることになる。株価はこれを先見・先取りし、「利益が株価に追いつく」ことになる。1~3月期決算が発表されるゴールデンウイーク前後から、コンセンサス予想が確認され「業績相場」の様相が強まることが期待される。

(6) 「ESG」投資の一段の広がり

菅政権が発足時から打ち出している政策は、世界的な潮流となってきた「ESG」投資の時流に則った内容であり、拡充のベクトルに向かっている。今年中に必ず行われる衆院の解散・総選挙においても争点の一つとなり、政権サイドからは有権者(特に女性、若者)を意識した政策の提案・発動が予想される。

「グリーン(脱炭素)社会」の実現に向けた省エネルギー、再生エネルギーの拡大による温室効果ガスの排出を2050年までにゼロとすることが掲げられた。1997年に定められた京都議定書、2016年に発効したパリ協定のタイミングからは周回遅れの感があるが、今後は官民一体となった具体的取り組みの動きが表面化・加速化することになる。

菅政権は、世界の現状から比較して圧倒的に出遅れていることが明らかになった「ジェンダー政策」にも積極的に取り組む必要があり、「女性活躍社会」の実現に向けての成果を示さねばならない。さらに、米バイデン政権の外交・軍事面での基本的な核心である「人権外交」においても、新疆ウイグル自治区、ミャンマー、香港、台湾などの中国を取り巻く周辺諸国・地域での紛争・弾圧・威嚇に対するスタンスを明確にすることに追い込まれる。

「G(組織統治)」の観点からは、新型コロナウイルスの拡大に対して昨年から連続して発動した大型経済対策により一段と悪化した公的債務残高・国債発行状況に関して、「プライマリーバランス」(基礎的財政収支)の長期的解決策を改めて国民に明示する必要がある。

さらに、最近頻発している政治家・官僚の不祥事と規律の緩みに関しても、内部統治の観点から対処し、情報開示と説明責任を果たすことが求められる。 これらの成果が、5月から9月までに行われる解散・総選挙での審判につながることになろう。

(c)株式会社グッドバンカー
顧問
田淵英一郎

(ご留意頂きたい事項)
本稿で記載されている経済統計および金融市場データは発表元ならびに各種の情報媒体から入手・加工したものであり、正確性と安全性を必ずしも保証するものではありません。記述の内容は筆者の個人的な知見、判断、著述形式に拠る投資情報と投資アイデアの提供が目的であり、予想の結果や将来の投資成果を保証するものではありません。

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