先進国における経済成長率と中央銀行による金融政策からみた今年後半の投資環境の特徴は以下のとおりである。
主要国の景気モーメンタムは跛行状態にある。
米国の第2四半期(4~6月期)のGDP成長率は前期比年率+6.5%となり、第1四半期(+6.3%)並みの成長率に留まった。事前予想(+8.5%)を大幅に下回ったが、新型コロナ感染拡大前の経済水準を上回る回復を見せている。FRBによる大規模な金融緩和と新型コロナウイルスワクチンの接種対応の効果に負っている。今年後半の成長モーメンタムは鈍化する予想だが、それでも年率+5%程度の成長率を維持するというのがコンセンサスである。
欧州(ユーロ圏)は2四半期のマイナス成長に陥った後、第2四半期からプラス成長に転換して、後半はプラス幅が加速する見通し。個人消費と設備投資がようやく牽引役となってきた。
中国の第2四半期成長率は前年同期比+7.9%で予想を上回る成長を示した。後半は個人消費が鈍化することから徐々に減速基調を辿る見込み。
日本の第2四半期成長率のコンセンサス予想は前期比年率+0.2%と僅かながらプラス圏に回復する見通しだが、2四半期マイナス成長になる可能性もある。第3四半期は+4.9%成長予想だが、足元の新型コロナの感染拡大と東京五輪の押し上げ効果が剥落したことから、下方修正となる可能性が高い。
総括すると、昨年前半での新型コロナウイルス感染拡大により景気が急落した後の経済の回復度合いと成長モーメンタムは、
① いち早く底入れから回復に転じて感染拡大前の水準に回帰した米国、中国
② 底入れが遅れ、マイナス成長が長引き、ようやく反転してきた欧州
③ 昨年後半の2四半期は回復したものの、今年に入ってからの下方バイアスが強い日本
というように、先進国間でもパターンの違いを見せている。
コロナ感染拡大前における日本の景気のピークだった2019年第3四半期と、直近の21年第2四半期の経済規模水準を比較すると(日本は発表前予想値)、
① 米国 = 105
② 欧州 = 73
③ 日本 = 86
となる。
先進国の金融政策を見ると、米国は6月のFOMC(金融政策決定会合)で、長年続けてきた「ハト派的金融緩和方針」からの転換が明らかになった。債券・金融商品の買い入れによる量的緩和の縮小(テーパリング)は、早ければ年内にも着手。その後の政策金利の引き上げ開始時期も、これまでの2024年見通しから23年に前倒しとなったが、22年実施という意見も一部から聞かれるようになってきた。この動きを反映して、足元の短期金利(2年未満)は金融政策の前倒し観測から強含み、長期金利(5年以上)は景気モーメンタムの鈍化見通し、インフレ懸念の後退から低下の動きとなり、長短金利差(イールドスプレッド)は縮小した。イールドカーブが“フラットニング化”したことで、過去の経験則からは“将来の景気鈍化“を示唆している。
ECBは7月22日の政策理事会で「金融政策の先行き指針」(「フォワードガイダンス」)を変更して、“超低金利政策”を継続することをコミットした。物価上昇率が2%に達しても、その水準に留まることが確認されるまでは政策金利は現在の水準が維持される。ECBの現在の物価上昇率見通しは、2022、23年とも1%台半ばなので、“超低金利政策”は今後数年間は続くという観測が強まった。
ラガルド総裁は「物価上昇は一時的で、中期的に目標以下の水準にとどまる。引き続き金融政策で押し上げる必要がある」と強調した。
米国・欧州での周辺諸国では、
① 既にテーパリングを実施したカナダ、オーストラリア、ニュージーランド
② 利上げを実施したアイスランド、ハンガリー
③ 将来の利上げが観測されているカナダ、ニュージーランド、英国
など、今年に入って多数の国が既に“金融緩和の終焉”の動きに入っている。
日本の見通しは、
① 東京オリンピック実施後の赤字・負債・処理問題がクローズアップ
② 新型コロナウイルス感染再拡大・ワクチン接種対応などへの不満から政局流動化
③ 消費者物価統計の改定による物価上昇率見通しの引き下げ
④ 足元の景気見通しと為替推移から、日銀は金融政策の発動・強化を行う必然性はなく、“様子見スタンス”を継続
⑤ 7月16日の金融政策決定会合では、金融機関の気候変動対応の投融資を促す新制度(ゼロ金利で長期資金を供給する)仕組みを決定して、政権が公表した「脱炭素社会」への協力姿勢を明らかにした
以上のような先進国間での経済成長、金融政策の見通しの乖離・跛行性から示唆される、中・長期的な投資環境の見通しとしては、
① 米国の経済成長性が相対的に強く、金融政策の修正も接近してきていることから、短期金利は強含みで推移 し、米国への投資資金は流入することから米ドルの強調展開が続く
② 欧州(ユーロ圏)は、「欧州復興債」の発行による投資資金流入は評価されるが、経済回復の遅れ、ドイツ・フランスの政局懸念の高まり、“超低金利政策”がコミットされたことなどから、金利・為替(ユーロ)ともに低位横ばい(米ドルには劣後する)
③ 日本の景気見通しは下方修正バイアスが強く、政局流動化の可能性もあることから、米国・欧州圏から見て後塵を拝する立ち位置が引き続き続く
④ 日銀が今回の金融政策決定会合で導入した新たな投融資制度は、国債の格付けにおけるESG評価が今後重要となってくることから、活用状況などの推移を注視していきたい
(c)株式会社グッドバンカー
顧問
田淵英一郎
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