欧米に15~20年遅れて、2020年4月、日本でも電力業界の「発送電分離」が実施されました。発電・小売事業から、社会インフラとしての送配電事業を切り離して、前者の自由化・市場化を進めています。これまでの電力供給は、地域独占の電力会社が、発電から小売まで一貫体制で担い、電力会社の利益を保証する「総括原価方式」により電力料金が決められるなど、非効率な市場でした。しかし、電力インフラの十分な整備が進んだため、発電・小売への新規参入を解禁し、市場競争を導入することで経済効率性の向上をめざすものだと当社は捉えています。公平な競争を行うためには、電気を送る送配電事業が中立性を確保する必要があり、そのために送配電事業を切り離すのです。
電力改革が先行している欧州では、公共的事業として送配電網の機能向上や設備増強を進め、多くの再生可能エネルギー発電所が送配電網への接続、利用が実現しています。また燃料費が発生しない再エネは、電力市場でその価格競争力を活かして急速にシェアを拡大しています。まさに市場機能を活用して脱炭素が進んでいます。イギリスの送電・ガス供給事業を担っているNational Gridでは、2020年に214日間、連続最長68日間の石炭火力出力ゼロを記録しました。IEA(国際エネルギー機関)は、2021年5月に公表したロードマップ「Net Zero by 2050」で、2050年までに発電における再エネのシェア90%をめざすとするなど、世界における再エネの普及はますます加速していくでしょう。
こうした世界の潮流に後れを取ることなく、日本の電力会社も脱炭素への担い手としてその役割を発揮することが求められています。電力広域的運営推進機関(OCCTO)によると、電力自由化で新規参入者が増加した結果、2021年5月時点で、発電会社は722社、小売会社は978社に達しています。新規参入者は、これまでの電力会社とは異なる新しいビジネスモデルの開発が期待されます。他方、従前からの大手電力10社は、火力・原発依存のビジネスモデルからの大胆な転換が求められています。
この日本の電力システム改革が、ともすれば対立的に捉えられてきた環境と経済のトレードオフを越えて、市場や企業経営に環境を取り込んで成長していく最新のモデルケースになるのではないかと、注目しています。
参考:
https://www.nationalgrideso.com/future-energy/cop26/road-zero-carbon-numbers
(英National Grid HP「Road to Zero Carbon in numbers」)
https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
(IEA「Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector」)
(電力広域的運営推進機関)
株式会社グッドバンカー
リサーチチーム